第10.5話ユウシャちゃんゴーレムに案内される・レトロゲームセカイの道にて

「マオウちゃんったら、いきなりゴーレムさんにあたしを案内させるだなんて……『ここレトロゲームセカイではわたしの配下の中からよりすぐりのモンスターに人間の面倒を見てもらってるんだ。おっと、その目は、じゃあ人間がモンスターの面倒を見てるレトロゲームセカイみたいな場所もあるんですか、と聞きたげな目だね。その答えは”知らない“だよ。いいかい、ユウシャちゃん。”はい“でも”いいえ“でもなく”知らない“だからね』なんて言ってたけど……あ、ゴーレムさん、待ってください」


 スタスタ


「別にあたしは引退したモンスターを人間が面倒見てる場所があるかどうかなんて、思いもしなかったっていうのに……それにしても、気まずいなあ。あたしもこれまでにずいぶんとゴーレムさん一族を倒してきたからなあ……ひょっとして、このゴーレムさんあたしを恨んでたりして……」


「あの、勇者さん、自分、歩くスピード速いですか」


「えっ、ええ、そうですね。ほら、ゴーレムさんって、大きいじゃないですか。全身石造りでまるで建物みたいで。そんなゴーレムさんだと、ゴーレムさんが普通に歩いてるつもりでもあたしにはちょっと速いかなあって……あ、全然別にいいんですよ。あたしのことなら気にしないで。あたしが速く走ればすむことなんだから」


「いえ、自分は魔王様にせいいっぱい勇者さんをもてなすよう命令されていますから。自分が勇者さんに合わせます」


「そ、そうなんだ、じゃあ、もうちょっとゆっくり歩いてもらえるかな、ゴーレムさん」


「了解です、勇者様」


 のっそーりのっそーり


「なんだか、ずいぶん歩きにくそうだなあ、ゴーレムさん。あんな家みたいに大きい体であたしにあわせてゆっくり歩こうとしたら、そりゃあ歩くにくくもなるわよねえ……そうだ、もしかしたら……あの、ゴーレムさん。もしよろしかったらでいいんですけれど、あたしをゴーレムさんの肩に乗っけてもらえませんか」


「自分の方に勇者様をですか?」


「そう。ほら、ゴーレムさんみたいな大きな方の肩に乗っけさせてもらったら、見晴らしも良さそうですし、ゴーレムさんも自分のペースで歩けるんじゃあないかなあと思いまして……もちろんゴーレムさんが良かったらの話なんですけれど……」


「勇者様がそれでよろしいのでしたら、自分は一向に構いませんが……よろしいですか、それではいきますよ」


 ひょいっ


「うわー、いい眺め。これはすごいですよ、ゴーレムさん」


「そうですか、それはよかったですね、勇者さん」


「わ、ゴーレムさんの顔がこんなに近くに。そうだ、ちゅんと言っとかなきゃあ。その、ゴーレムさん。あたしはこれまで勇者やっててね、いままでいっぱいモンスターを倒してきたんだ。その中にはゴーレムさんたちもいてね、その……ごめんなさい」


「勇者様が謝る必要なんてちっともありませんよ」


「でも、ゴーレムさんにしてみれば、『人間め、仲間モンスターのカタキ!』なんてことにならないのかなあって」


「自分、そういう仲間モンスターとか、カタキの人間とかいうのはよくわからないんです」


「なんでなの、ゴーレムさん」


「魔王様から聞いてないんですか、勇者様。別に秘密でもなんでもないから言いますけど、自分は子供の頃にモンスター同士でやらかして、モンスターの刑務所に入れられてたんです」


「そ、そうだったんですか、なんだかごめんなさい」


「気にしないでください、勇者様。それで、子供の時から刑務所暮らしで人間とは関わり合いがなかったものですから、どうも人間がカタキという話がピンとこないんですよねえ。むしろビシビシしごかれた刑務官のモンスターの方にちょっとしたわだかまりがあると言いますかなんと言いますか」


「ふうん、モンスターさんの世界も複雑なんだねえ」


「そして、そろそろ満期になってお務めも終わろうかって時に魔王様がいらっしゃってですね、『こうこうこういう場所があって、こうこうこういう人手が必要だ』なんておっしゃられるんですよねえ。自分としては、前科がついた自分みたいなものが働ける場所があるって言うだけでありがたい話で、一も二にもなく飛びついたってわけです」


「へ、へえ、そんな大変な経験をしたゴーレムさんにあたしを肩で運ばせちゃって、なんだか申し訳なくなってきちゃったよ」


「いえ、仕事ですから。それに勇者さんのペースでゆっくり歩くよりはずっと楽ですし。それに、人間を肩に乗せると言うのもなかなかこれはこれで悪くないものですよ」


「そうなんですか。じゃあ、ゴーレムさんが困ったことがあったら言ってくださいね。あたしが手を貸しますから」


「それなら、ここにはここのルールがありますからそれには従ってくださいね。自分は勇者さんたちの世話をするようおおせつかっておりますが、自分のボスは魔王様です。もし魔王様が勇者様と敵対するようなことになったら、自分は魔王様につくとだけは言っておきます」


「りょ、了解しました、ゴーレムさん」


「付きましたよ、勇者さま。ここが勇者様のお住まいです。今肩からおろしますからね。よいしょっと、足元に気をつけてくださいね。では自分はこれで失礼します」


「うん、ゴーレムさん、どうもありがとう」

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