第10話ユウシャちゃんマオウちゃんに宣言する・マオウちゃんの部屋にて

「お、お戻りなすったね、勇者さん。それで、どうすることにしたね」


「あ、あたしたち四人をここレトロゲームセカイに住まわせてください、魔王さん。お願いします」


「いいとも、我々は勇者様ご一行を歓迎しようじゃないか。でも、ひとつ勘違いしてほしくないことがあるんだ」


「なんですか、魔王さん」


「それはね、勇者さん。別にここレトロゲームセカイに住むからといって、勇者さんが魔王討伐を諦める必要はないってことさ。いつでもわたしの寝首をかきに来てかまわないよ。わたしは暗殺や闇討ちが卑怯だなんて言いはしないからね。むしろどんどんやってくれて構わない。あたしに勇者さんが返り討ちにされても今回みたいにじゃんじゃん生き返らせてあげるからね。どんどん再挑戦するといい」


「で、でも、そんなことをしたら……」


「そんなことをして、もし勇者さんがわたしを殺しちゃったらここレトロゲームセカイがどうなるか心配だと言うのかい。これは四人がかりでもわたしにワンターンキルされた勇者さんが大きくでたねえ。そんなことを言う暇があったら、もっと修行しなさいな」


「むうう」


「そうだ、こう言うのはどうだい。いままで絶対悪と信じていた魔王が、実は人間サイドと裏で繋がっていた。衝撃の事実を知った勇者さんはあまりの怒りに我を忘れ凶暴化。人間サイドもモンスターサイドも関係なく殺戮するキリングマシーンになってしまった。おお、こわいこわい。そんなキリングマシーンになってしまった勇者さんにわたしは太刀打ちできるのでしょうか」


「そうだ、それですよ、魔王さん。人間サイドと魔王サイドが繋がってたって、どれくらい繋がってたんですか。だって、人間サイドと魔王サイドが繋がってないと信じ込んでる人たちもいるんでしょう。ちょっと前までのあたしたちみたいに。そんな人たちがいるのに、勇者であるあたしが魔王討伐をやめると言うのはあまりにも無責任なんじゃあないでしょうか」


「おっと、‘そう来たか、勇者さん。そうだねえ、とりあえず、王とか貴族レベルだとまず全員が我々モンスターサイドとグルだね。グルと言っても、別にいっしょに悪事をしているわけじゃあなくて、お互いに利用しあっているぐらいのものだけど。それに、勇者さんにこの場所を紹介した武器屋さんだけど、彼女はわたしが大魔王様につかえる中間管理職に過ぎないってことぐらいは理解していたんじゃあないかな」


「そうだったんですか、ブキヤちゃんが……」


「おっと、武器屋さんを責めないでくれよ、勇者さん。武器屋さんもしがない一商人だからね、秘密をペラペラしゃべるわけにはいかないのさ。それに、武器屋さんとしても、モンスターサイドと人間サイドが殺し合っている方が商売繁盛というものだろう」


「別にブキヤちゃんを悪く言う気はありませんけれど……」


「それはよかった。それでなんだけどね、勇者さん。人間サイドに、魔王であるわたしを親のカタキと思っている人間がいることは事実だよ。そして、そんな人間サイドとモンスターサイドが裏で繋がっているのも事実だ。そして、勇者さんたちが魔王を倒すと言う使命を持っていることも認めようじゃないか」


「はあ……」


「で、勇者さんや、考えてみなさい。魔王城をいちいちくぐり抜けてから戦闘準備ばっちりのわたしを正々堂々殺すのと、ここレトロゲームセカイで英気を養いながら、気を抜いているわたしを卑怯に殺すのとではどちらが簡単なのだろうね」


「だらけている魔王さんをこっそり暗殺する方が簡単だと思います」


「だろうね。で、勇者さんはどちらを選ぶのかな。『魔王と手なんて結べない。勇者は勇者らしく正々堂々と戦う』と言うのもいいだろう。『魔王を倒すために、勇者である自分の手が汚れても構わない』なんて暗殺を選ぶのもいいだろう。ああ、後者の場合でも、勇者さんがここレトロゲームセカイで引退してることは秘密にしてあげるよ。そもそも、レトロゲームセカイの存在自体が秘密だしね。勇者パーティーはどこかで魔王討伐の旅を続けていると世間は思ってくれるんじゃあないかな」


「そこまで言われたら、レトロゲームセカイに住まないわけにはいかないじゃあないですか」


「わかってくれて嬉しいよ、勇者さん。それで、今後について大事な話があるんだけれどね」


「なんですか、魔王さん」


「それはね、初戦闘の時は魔王城をくぐりぬけてきた勇者さんに敵として敬意を表して『勇者』なんて呼び捨てにした。こうして話をしている時は『勇者さん』とさん付けだ。で、これからはここレトロゲームセカイでいっしょに住むことになるわけだけど、だったら『勇者さん』なんて呼び方は他人行儀がすぎるんじゃあないのかなあ」


「じゃあ、これからはあたしのことをなんて呼ぶつもりなんですか、魔王さん」


「『ユウシャちゃん』って呼んでいいかな。もちろんわたしのことは『マオウちゃん』って呼んでくれて構わないから」


「……わかりました、マオウちゃん」


「はーい、これからもよろしくね、ユウシャちゃん。じゃあ、とりあえずユウシャちゃんの一軒家に案内するね。ゴーレムに案内させるよ。おっと、テレポーターなんて使わせないよ。せっかくだから見物がてら歩いていくといい」


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