第6話ユウシャちゃんマオウちゃんにレトロゲームセカイ設立の経緯を説明される・マオウちゃんの部屋にて

「勇者さん、今、鈴で呼び出した部下のものに棺桶を蘇生場に運ばせたからね。ちなみに、勇者さんにはパーティーメンバー蘇生の現場にたちあってもらっては困るんだ。蘇生担当の部下がちょっと訳ありでね。ま、一人生き返らせたらすぐに連絡が来るようになってるから。それまでただ待ってるのも退屈だから、わたしがここレトロゲームセカイの管理人になった経緯を説明しちゃうわね。仲間のことが心配でそれどころじゃないって勇者さんが言うのなら、適当に聞き流してくれちゃって構わないから」


「はあ」


「それでね、勇者さん。わたしとしてはだね、魔王であるわたしを倒しにくる人間は、わたしの敵と言えば敵なんだけどね……どちらかと言えばライバル的なものと思っていたんだよねえ。もちろん勇者さんも含めてね」


「そうなんですか」


「だからね、勇者さん。別にわたしも人間をただのエサとしか思っていないというわけじゃあないんだよ。わたしのボスである大魔王様どうか知らないけどね……わたしとしてはこのあたりはきちんとわかってもらいたいんだけどね。だけど、最近出てきた『自称冒険者?』とか言うのね、あれは正直いただけないねえ」


「なるほどお」


「やっぱりね、わたしとしても一応は魔王なんだからさ、わたしを倒しにくる相手にはわたしを倒すことを第一の目的として欲しいんだよ。その理由が王様からの命令だろうが、故郷を魔王軍に滅ぼされただろうがはなんでもいいんだけどね」


「それはそれは」


「でも、『自称冒険者』さんはそうじゃないんだよねえ。勇者さんと違ってさ。なんか、『ギルド』とやらで仕事を請け負ってさ、場当たり的にその場しのぎに仕事をこなしているばっかりでさ、魔王であるわたしのことなんかてんで頭にないみたいなんだ。しかもだよ、モンスターサイドにも『そっちのほうがいいや』なんて意見が出始めているんだよねえ」


「大変ですねえ」


「そうなんだよ、わかってくれるかい、勇者さん。今の若いモンスターもね、『魔王様に従ってなんていられるか』なんて言い出す連中が多数派なんだよ。『俺は好き勝手にやらせてもらうぜ』なんて言っちゃってね、その辺りの町の近くで暴れまわっちゃうんだよ。わたしはわたしなりに、これまでモンスターの配置には、生態系とか、バランスとか、色々気を配ってきたのにさ」


「あの、魔王さん……蘇生のほうはまだですかね」


「あせらないでよ、勇者さんや、今いいところなんだから。で、その地域のモンスターレベルとはかけ離れたお強いモンスターが暴れまわることになるんだよ。だけどね、そんなお強いモンスターを、これまたどこからやってきたかわからない、これまでろくにレベル上げもしたことのないような連中が、わけのわからないスキルとかいったもので『自称冒険者』さんがあっさり倒しちゃうんだよ」


「ははあ」


「わたしとしてはだよ、最初弱かった勇者さんが同じく弱いモンスターをコツコツ倒して、地道にレベルを上げてだね、だんだん倒すモンスターも強くなっていって、そのうち魔王であるわたしと戦えるくらいには強くなるのをもう何十年も楽しみにしていたのに、いきなり反則みたいに強い冒険者さんが強いモンスターを倒しても面白くもなんともないんだよ。このあたりはきちんと今まで、コツコツやってきてついに魔王城の最深部でわたしと対峙した勇者さんの意見も聞きたいところなんだけどね」


「魔王さん、そんなことよりもはやくあたしのパーティーメンバーを生き返らせてもらえるとありがたいんですけど……」


「そんなこととはごあいさつだねえ、勇者さんや。わたしのこの気持ちに同調してくれるものも少なからずいるんだよ。モンスターサイドももちろん、人間サイドにもね。それで、こんなふうになってしまった現代に愛想をつかして、こっそり隠れ里的なものを作って、そこでモンスターと人間が暮らしているわけなんだよ。そこが、レトロゲームセカイなんだね」


「あの、魔王さん。蘇生完了の合図はまだなんでしょうか」


「ああ、蘇生完了の合図ね。いまされたところだよ。ええと、生き返ったのは戦士さんかな。その生き返った戦士さんのところに行くかい、勇者さんや。このレトロゲームセカイ専用のテレポーターを使えばすぐにご対面できるよ。ちなみに、そのテレポーターは一人用だからね」


「はい、ぜひ、それでは失礼します、魔王さん」


 シュワーン


「やれやれ、勇者さんったら、一人生き返ったと知ったらすぐにテレポートしちゃったよ。よっぽどわたしが殺しちゃったパーティーメンバーに生き返ってもらいたかったんだねえ。あのの様子だと、わたしのレトロゲームセカイについての説明もちっとも耳に入ってないんじゃないかねえ」


 ニヤニヤ


「まあ、そのくらい仲間思いの勇者さんだからこそ、魔王城の最深部までたどり着いたとも言えるけれど。そんな勇者さんとレトロゲームセカイでいっしょに仲良くやっていくのも楽しそうだけど、全滅に懲りずに、まだまだわたしを殺しにきてもらうのも面白そうだねえ。そうだ、いいこと思いついちゃった」

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