第5話ユウシャちゃんマオウちゃんに告白される・マオウちゃんの部屋にて

「勇者さん、モンスターサイドも人間サイドもこのシステムが良いと思って成立させているんだよ。まあ、一番の理由はあたしが強いやつと戦いたいからモンスターに人間を襲わせているからなんだけどね」


「どういうことですか、魔王さん」


「そのまんまの意味だよ、勇者さん。わたしはね、本気でわたしを殺したいと思っているような相手と命がけの勝負をしたいんだ。わたしの部下にわたしを憎んでいるものはいない。みんなわたしを慕ってくれているからね。わたしのボスもわたしを憎んでいることはない。ボスはわたしを殺そうと思えば殺せるだろうけど、わたしを可愛がっているボスに殺されても意味はないんだ。となると、そんな相手を自分で作るしかないだろう」


「魔王さんにもボスがいるんですか?」


「いるよ、多分、わたしが倒されたら満を持して人間界にその名を轟かそうとスタンバッているんじゃないかな。それはともかく、勇者さんがパーティーを引き連れてわたしの前に参上したときはゾクゾクしちゃったね。勇者さんったら、真剣にわたしを殺そうと憎んでいるんだもん。そんな勇者さんに本気を出しちゃったらワンターンキルしちゃったんでちょっとがっかりしちゃったんだけどね」


「ご期待に添えなくて申し訳ありませんでした、魔王さん」


「別に勇者さんが謝ることはないよ。でも、わたしも反省してるからね、今は部下に魔王城のあちこちにそれはもうすごい武器や防具を宝箱の中にしまって隠している真っ最中なんだ。こんど勇者さんがわたしを倒しに魔王城経由でわたしに会いに来ようと思ったら、ぜひ見つけて装備してあたしに挑んできてほしいな。そうすれば、もう少しわたしも楽しめると思うから」


「そんなことを聞かされて、あたしがまた本気で魔王さんを殺しにくると思いますか」


「それもそうだね、勇者さんの言う通りだね。でも、人間界ではわたしの部下が残虐な行為にいそしんでいるだろうからね。わたしのことを本気で憎む人間には事欠かないだろうさ」


「それにしても、ブキヤちゃんからレトロゲームセカイはずいぶんいいところだって聞いてましたけど、魔王城なんて不気味なところに人間を押し込める気だったんですか。あたしもさんざん苦労して魔王城を突破しましたけど、あそこが住むのに快適だとはとても思えませんよ、魔王さん」


「魔王城が人間が住むのにふさわしい場所でないと言う意見には同意するけどね、勇者さん。それがなんで魔王城に人間を押し込めることになるのかな。論理が飛躍しているんじゃあないかなあ」


「だって、レトロゲームセカイの話をしにキメラの翼で飛んできたら魔王城に到着したじゃないですか。レトロゲームセカイって魔王城のことじゃないんですか、魔王さん」


「ここは魔王城じゃないよ、勇者さん。周りをよく見てごらんなさい」


「魔王城じゃないって……床や壁にはおどろおどろしい模様が……ない。普通の部屋じゃない。魔王さんの玉座はそれはもう悪趣味なゴテゴテしているようなものじゃ……ない。普通の椅子みたいね。魔王さんの服は見るものを威圧させるデーモンデビルちっくなサタンっぽいやつじゃ……ない。普通の服……どういうことなの、魔王さん」


「どう言うことも何も、これがあたしのふだんの格好で、普段いる部屋だよ。勇者さんと初対面の時は、正義の味方の勇者様が悪の親玉を殺しにくるシチュエーションだったからね、それにふさわしいセッティングをしないとね。はらわたのくだりでさっきも言ったでしょう。わたし、行儀作法にはうるさいんだから」


「すみずみまで配慮を行き渡らせていただいて、この勇者、感謝の言葉もありません」


「それはそうと、勇者さんの後ろの三つの棺桶に入っているのは、わたしが全体ブレスと全体魔法で昇天させちゃった勇者さんのパーティーメンバーかな。このレトロゲームセカイには、死者蘇生の設備も備えられているけど、どうする? いきかえらせる? お代は……タダでいいや。魔王城を突破して玉座のわたしにたどり着いたご褒美ってことで」


「お願いします、早くセンシちゃんとソウリョちゃんとマホウツカイちゃんの三人を生き返らせてください」


「即答だねえ。勇者さんのその仲間思いなところは好感が持てるよ。ここで『魔王のほどこしなんて受けるわけにはいかないよ』なんて言われたら、レトロゲームセカイへの入居資格に疑問が生じるところだったよ」


「そんな入居資格なんてどうだっていいですから、三人を生き返らせてください」


「わかったわかった、勇者さん。でも、今すぐ三人いっぺんに生き返らせるってわけにはいかないから、ちょっと時間がかかるよ。そもそもここレトロゲームセカイでは死亡事故なんてそうそう起きないから、人間の教会と同じように思ってもらっては困るんだ」


「待ちます、待ちますから、早く蘇生の準備に取りかかってください」


「それじゃあ、大至急」


 チリンチリン

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