第4話ユウシャちゃんマオウちゃんに出会う・マオウちゃんの部屋にて

 スタッ


「あのー、勇者です。ブキヤちゃんに言われてキメラのつばさ使ってきたんですけど……」


「おや、あんたかい。キメラのつばさで来たってことは、レトロゲームセカイ関係できたってことだね。とりあえず話を聞こうじゃないか」


「魔王! お前は魔王! あたしたちパーティーを全体ブレスと全体魔法でワンターンキルさせた魔王じゃないか。お前のせいでセンシちゃんやソウリョちゃん、それにマホウツカイちゃんは棺桶に入っているんだからね。仲間のカタキなんだから、さあ覚悟しろ、魔王!」


「落ち着けって、勇者さんや。こちらはとりあえず話をしようと言っているんだよ。それとも人間の世界では、話をしようと言っている相手に問答無用で斬りかかるのが勇者さまの正義なのかい。それならそれでもいいけどね。でも、四人がかりでワンターンキルされた相手に、一人で何をするつもりだというんだい。気を沈めなさいったら、別にとって食ったりするつもりはないんだから」


「で、でもあたしたちがパーティーだったときに初めて会ったら『貴様らのはらわたをくらいつくしてやる』って言ってたじゃない」


「ああ、あれは、エチケットというかマナーというか……正義の勇者様がこちらを殺す気満々でかかってきたら、こちらもいかにも悪役でございといった言動をしなければ無作法というものだろう。そちらさんが、話をしようという態度で来るなら、こちらもそれに見合った応対をするさ。で、どうするね、勇者さんや」


「あ、あたしは、魔王……魔王さんと話がしたいです」


「けっこう。じゃあ勇者さん、正義の味方と悪者の会談といこうじゃないか」


「そ、そのレトロゲームセカイのことなんですが……あたしはそこに行ってもいいんですか」


「もちろん。七つのオーブを集めて不死鳥をよみがえらせて、この魔王城の最深部までやって来られるような実力の持ち主の勇者さんなら大歓迎だよ。観光目的でもいいし、永住目的でも全然問題ないよ」


「あたしのこと、ずいぶんお詳しいんですね、魔王さん、オーブとか、不死鳥とか」


「それはまあ、こちらを殺しにかかってくる相手に興味が湧くのは当然だからね。いろいろネットワークを駆使して勇者さんのことは調べていたよ。勇者さんがキメラのつばさを使ってここに来たってことは、武器屋さんから話は聞いたのかな。ということは、魔王と人間サイドの武器屋がつながってるってことは想像つくよねえ」


「ど、どのくらい魔王サイドと人間サイドに繋がりがあるんですか」


「いい質問だねえ、勇者さん。その答えは、『お互いがルールを決めている程度には繋がりがある』と言ったところかな」


「ルールですか……」


「そう、ルールね、勇者さん。例えば、どうして町や村にモンスターが入って来ないのかと疑問に思ったことはないかな」


「それは、特殊な結界が張られているからって」


「人間サイドではそう教えられているみたいだね。でも、だったら結界の周りをモンスターで取り囲むことだってできるよね。それをわたしがしないのはどうしてだと思うかい、勇者さん。答えは、人間サイドからそう要請されているからだよ。『町や村を襲わないでほしい』ってね」


「人間サイドの要求を魔王さんは受け入れているんですか」


「そうだよ、勇者さん。ただ、一切襲わないってのも不自然だからね、人間サイドとの合意の上で町や村を襲うことはある。そう言った場合、襲う場所は、すでにボロボロで、ほっといてもすぐに建て替える必要がある。なら、いっそのことモンスターに壊させてやれってことになってるんだけど。もちろん、それを知っている人間と知らない人間がいるんだけどね」


「あたしは知らない方の人間だったということですか、魔王さん」


「そうみたいだね、勇者さん。当然、こちらからも人間サイドに要求をしている。具体的にいうとゴールドだね。勇者さんがモンスターをやっつけると、勇者さんはゴールドを手に入れるけどなんでモンスターがゴールドを持ってるんだと思う」


「ピカピカしているゴールドを、モンスターが好んで人間から奪っているからと教わりました」


「教科書ではそうなっているみたいだね、勇者さん。現実はこうだ。わたしは部下にこう命令している。『命が本当にヤバくなったら、ゴールドをばらまいて死んだふりをしろ。そうすれば本当に死にはしないから』って。そう言って手下にゴールドを渡していて、そのゴールドは人間サイドから提供されているものなんだけどね」


「じゃあ、なんで人間とモンスターは争うんですか、魔王さん。そんなルールが成立するなら、お互いが仲良くだってできるんじゃあないんですか」


「わたしの部下には血の気が多いものもいてね、人間なんて顔を見ただけで殺したくなるようなのもいる。人間サイドにも、『魔王であるあたしにヘイトを集めておいた方が自分たちの政治がやりやすくなる』なんてことを言うお偉いさんもいるみたいだよ、勇者さん」




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