第3話ブキヤちゃんがユウシャちゃんにレトロゲームセカイ行きを勧める・武器屋にて
「あのね、ユウシャちゃん。ここに瞬間移動アイテムのキメラのつばさがあるんだ。これを使えば、レトロゲームセカイの管理人のところにひとっ飛びできるようになっている。管理人さんは、ユウシャちゃんの話だけでも聞きたいって言ってたから、試しに行ってみるくらいはしてみてもいいんじゃないかな」
「ブキヤちゃん、そのキメラのつばさ使ってもいいの。あ、でも、ゴールドが……」
「お金だったらいいよ、ユウシャちゃん。このキメラのつばさはその管理人さんからもらったものだからね。『その勇者がこのレトロゲームワールドに興味があるようだったら渡してくれ』って。あ! ユウシャちゃんが『そんなのは嫌だ』なんて言うのなら、薬草や毒消し草を定価の半額で買わせてもらうよ。ユウシャちゃんには今までひいきにしてもらったからね。そのくらいはさせてもらうよ」
「ブキヤちゃん、ありがとう。今までろくに武器を買いもせずに、薬草や毒消し草を買い取らせるか、あの百万ゴールドの剣を物欲しそうに眺めているかしてなかったあたしにそこまでしてくれて。そのキメラのつばさ、使ってもいい?」
「どうぞどうぞ、なんなら今すぐにでも」
「でも、あたしがいきなり瞬間移動したらそのレトロゲームセカイの管理人さんはびっくりしたりしないかなあ。前もって連絡した方がいいのかなあ。それに、怖い人だったらどうしよう」
「そんなことをする必要はないと思うよ。レトロゲームセカイの管理人は、管理人をしているだけあって、人の上に立つのにふさわしい大きな器をもった人だからね。突然の来客にあわてたりはしないさ。そして、怖いなんてとんでもない。人をとって食うような悪い人じゃない良い人だよ。」
「わかった。じゃあそのキメラのつばさ使わせてもらうね、ブキヤちゃん。えいっ」
ビュイーン
「おお、ユウシャちゃんが三つの棺桶と一緒に飛んで行った。さてさて、レトロゲームセカイの管理人に会ったら、ユウシャちゃんどんな顔をするかなあ。きっと驚くだろうなあ。初めてこの店に来て百万ゴールドの剣を見たときは、うっとりとした顔をして、ずいぶんくるくる表情が変わる女の子だなあと思ったけど、魔王と戦ったって言ってたな。そりゃあもうさぞかしびっくりするだろうなあ」
チラッ
「さて、百万ゴールドの剣の裏にはっと、あいかわらず『ユウシャちゃん予約済み』なんて書かれてるよ。ユウシャちゃんったら、あれで隠れてこっそりやってるつもりだったのかねえ。ま、ユウシャちゃん以外には売るつもりなかったからいいんだけど」
くすくす
「おお、いかんいかん。ついつい笑い声をもらしてしまったよ。いけないいけない。あーあ、ユウシャちゃんが魔王を倒したらこの剣を進呈するつもりだったのになあ。『おめでとう、ユウシャちゃん。魔王を倒したんだって。ええ! 魔王を倒したと思ったら、別の世界にその魔王を従えていた大魔王がいるんだって! それはいけない。ユウシャちゃん、この百万ゴールドの剣を使ってくれ。お金なんていらないよ。魔王を倒したユウシャちゃんがうちの店の剣を使ってくれたら、宣伝になるってもんだよ』なんて言ってね」
ふう
「なんて、ため息をしている場合じゃないよね、この店の閉店準備をしなければいけないし。それにしても、いやな世の中になっちゃったなあ。勇者が魔王を倒すってんだから、もっとじっくり時間をかけて見守ってくれたっていいのに。最近の冒険者ギルドときたら、『臨時期間限定イベント!』とか『今だけ特別コラボレーション』とか、冒険者をあおって金をジャブジャブ使わせることしか考えていないんだから。あれじゃあ、こつこつレベルを上げてじっくり魔王を倒そうなんて言うユウシャちゃんみたいな子は育たないよ」
やれやれ
「だめだだめだ、愚痴ばかり言っていては。だけど、今の武器屋のビジネススタイルにも問題があるよ。『この剣はこれだけの値段だよ。だからお客さんがそれだけ払ったらこの剣はお客さんが使い放題だよ』と言うのが昔のシステムだったのに。今の武器はなんだい。『この剣使うのはタダだよ。ああ、だけど、一ヶ月経ったら月々あたり千ゴールド払ってもらいますからね。ちなみに、それとは別に月々もう千ゴールド払えば、特別な追加機能が発動できるようになりますよ』ってなんだい。悪徳商人にもほどがあるじゃないか」
プンスカ
「しかも、それがまだ上品な方っていうんだからねえ。『一回あたり百ゴールドのガチャだよ。百分の一の確率で激レアソードが手に入りますよ』って……それもうお前武器屋じゃないだろ。カジノだろ。しかもそれを冒険し始めたばかりの年端もいかない子供にやらせるんだから始末が悪いよ。ああ、昔は良かったなあ。ユウシャちゃんみたいないい子が、一生懸命モンスターを倒して貯めたお金で武器を買いに来たんだから」
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