第2話ユウシャちゃん武器屋に行く
「……」
「あれ、どうしたんですか、武器屋のブキヤちゃん。いつもの『ここは武器屋だぜ、何にするかい』ってお決まりのセリフはどうしたんですか。あたし、ブキヤちゃんのその言葉を聞いて、お店の中の武器をあれこれウインドウショッピングするのが楽しみだったのに。と言うより、ブキヤちゃんのその言葉を聞かないとこの店にきたって気がしませんよ」
「そうだったんだ、ユウシャちゃん。わたしのいっつも変わらないセリフをそんな風に思ってくれていたんだ。そのことはすっごく嬉しいよ。でもね、この店はもう閉店にするんだ」
「ええっ、どうしてですか、ブキヤちゃん。もしかして、ここは武器屋なのにあたしが武器でもなんでもない薬草や毒消し草をひとつひとつちまちま売っていたのが営業妨害になっていたんですか。薬草一つ買い取ったってブキヤちゃんには大した儲けにはなりませんものね」
「いや、別にユウシャちゃんのせいじゃないよ。それに、ちまちまってのはまとめて売り買いできないこの店のシステムにも問題があることだしね」
「じゃあ、どうしてこの店が閉店になっちゃうんですか。あたし、この店大好きなんですよ。ほら、そこにあるすっごいかっこいいブキヤちゃん自慢の剣。お値段なんと百万ゴールドの。あたし、いつかこの剣買ってやろうと、裏にこっそりユウシャちゃん予約済みって書いておいたのに。そりゃあ、百万ゴールドなんて大金、薬草や毒消し草を売って小銭稼ぎしているあたしには無理かもしれないけど……でもブキヤちゃん」
「それはね、もうこの店みたいな個人経営の小規模店はやっていけないんだよ。今はもう『運営?』ってのが一括してアイテムの売り買いを管理するのが主流らしくてね、そこではこことは比べものにならないほど品揃えが充実してて、『ログインボーナス』とか言って大特価セールまでやっちゃうんだ。こっちの仕入れ値以下であっちは売ってくるんだからね、とてもじゃないけど勝負にならないよ」
「そんなことになってるんですか、ブキヤちゃん」
「そうなんだよ、ユウシャちゃん。たまにくる客もね、ろくに冒険もしてない初心者のくせに金だけは持っててね、『この百万ゴールドの剣よこせ』なんて言ってくるんだ。『金はあるのか』ってこっちが聞いたら、『課金したから持ってる』とか『とりあえずガチャ回させろ』なんて言ってくるんだ。とてもじゃないけどそんなやつにこの剣は売れないよ」
「『カキン』? 『ガチャ』? なんですかそれって、ブキヤちゃん」
「ああ、べつにユウシャちゃんが知る必要はないことだよ」
「そうですか、ブキヤちゃん。なら教えてくれなくてもいいですけど……だったらブキヤちゃんはこれからどうするんですか。ブキヤちゃんが武器屋を辞めてどうするんですか」
「そのことだったらユウシャちゃんが心配することはないよ。ユウシャちゃん、今から言うことはナイショだよ」
「わかりました、ブキヤちゃんが言うなら内緒にします」
「実はね、この武器屋みたいな伝統的なことをコツコツやってきたわたしみたいな人間がね、ちょっと時代の風潮が変わっただけで食いっぱぐれてのたれ死ぬことは許せないって言う大金持ちがいらっしゃるんだ。その大金持ちが世間にはこっそり内緒でレトロゲームセカイっていうところを作ってね、そこにわたしを住まわせてくれるって言うんだ。そこにはわたしみたいなのがいっぱい住んでいるらしいよ」
「へええ、そんなことが」
「それでね、ユウシャちゃん。そのレトロゲームセカイを管理しているお人がだね、‘あたしがユウシャちゃんの話をしたら、そのユウシャちゃんがレトロゲームセカイに住みたいって言うのなら歓迎するよって言ってたんだ。あ! もちろんユウシャちゃんがこれからもバリバリ現役でやっていきたいって言うのなら、無理のにレトロゲームセカイに行くことはないんだよ。あそこは一種の世捨て人の集まりみたいなものだから」
「あの、ブキヤちゃん。そのレトロゲームセカイって、回復システムはどうなってるんですか。教会みたいな蘇生や呪いの解除とかをやってくれる施設はあるんですか」
「それはもちろん充実してるよ。レトロゲームセカイの管理人が言うには、下手な町や村よりはよっぽど設備が整っているらしいんだ。スポンサーが、よっぽどわたしたちみたいな伝統的な冒険世界を支えてきた人間を大事に思ってくれているんだよ」
「その……ブキヤちゃん。実は、あたしのパーティーは魔王と戦ってきたところなんだけど、その魔王との戦闘で全滅しちゃって。だけど、ゴールドが足りなくて一人も生き返らせられなくて。今も薬草や毒消し草を一個一個ブキヤちゃんに買い取ってもらってゴールドを稼ごうと思ってたんだけど……」
「だろうね、ユウシャちゃんが引きずっている三つの棺桶を見ればそんなことくらいは分かるよ。レトロゲームセカイに行けば、とりあえず三人は生き返らせてくれるんじゃないかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます