3章・2話「穴の主」


何日か歩いた頃、淡海が


〔この辺りまでが、わしが縄張りとしていた地。これより先はまったく知りませぬ、しかし、山城国に入るのも後、三日ほどかと〕


と、言い立ち止まった。


「何か不安でもあるのですか?」


〔わしら妖が、やすやすと人の世の中心となる都に入れるかと・・・〕


「行ってみんと分からぬ、だが何とかなるじゃろう」


<それより、まずこの先は淡海殿の息が掛かってないとなると、

同じ妖にも気をつけなければいけませぬな>


〔ですな、縄張りを持ち、好戦的な強い妖もいるかも知れぬ〕


「そうか、楽しみじゃ」


〔はっはっは、飄葛様らしい〕


しかし、本当にそれはすぐに現われた。一行が歩いていると、


<わっ!>


と、科戸が見る限りでは何もなかったはずの地面の穴に半身、落とし叫んだ。

それを淡海がすぐさま助けよと一歩足を出すと


〔くっ!やられた!〕


と、同じく半身、穴に落ちた。


「落とし穴か・・・何者かの罠かも知れぬな・・・淡海殿、科戸、大丈夫か?」


と、飄葛は止まった。


<なんとか>


〔こちらも・・・しかし、腹立たしい!〕


科戸と淡海はすぐに穴から出た。

飄葛はすり足で、少し進み、穴を見つけ、足で叩き開けた。


「どうやら、この先穴だらけのようじゃ・・・」


そして、穴を覗き込んだ。


「深いな・・・暗く先が見えぬな、しかし、これは獣の臭いがする」


〔うむ・・これは土竜(モグラ)の臭いですな、しかし、大きさから察するに

妖か・・・〕


「土竜か、土竜の妖には会ったことないな、是非とも会ってみたいが・・・よし、穴に向かって大声で呼んでみるか、おーい、出てまいれー」


と、飄葛が穴に向かって叫ぶと、すぐに穴の中から返事が返ってきた。


[人か、いや妖だな?何を言うか食ってしまうぞ、立ち去れ!]


「いかにも妖じゃ、出てきて話をせんか?」


[ぬかせ、次、落ちたら引きずり込み食ってやろうぞ]


「こちらは何もせぬ、信じてくれまいか?」


[・・・おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まにはんどま じんばら はらばりたや うん・・・]


「!?何じゃ?」


<くっ!頭が痛い・・・これは経?なぜ妖が・・・>


〔ぬぅ・・・法力じゃ、たまらん・・・〕


と、淡海がしびれを切らせ穴に向かって言った。


〔なんと、生意気な・・・

おい土竜!わしは下の川で淡海王と呼ばれていた妖じゃ!

名ぐらいは知っておろう!ここは川に近く、水を操れるわしには地下の水脈も

わかる!出て来んと穴に水を流し込むぞ!〕


[何っ!淡海王とな、まことか?]


〔まことじゃ!信じれぬなら水を流してやろうか!〕


[そ、それだけは、ご勘弁!すぐに出ます!待ってぐだされ・・・]


一行はしばらく待つことにした。


<助かりました>


「この辺りでも名が届いてるとは流石ですな」


〔いや、水を流されるのが怖いのでしょう。土竜は代々、穴を受け継ぎ

共同で穴を使うと聞きまする、おそらく穴は繋がっており、沢山の

一族が居るのでしょう〕


そして、目の前の地面から土竜はゆっくり辺りを見渡しながら顔を出した。


[なんと・・・大きな妖気の妖が三つも・・・これは何事か・・・]


しかし、一行もすぐにその土竜の不思議な妖力を感じた・・・。

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