3章・『長岡京』・1話「旅路へ」


淡海王は話の後、それぞれの妖たちと別れを惜しみつつ、助言や忠告などを

1匹ずつ丁寧に話し、夜明けとなった。そして、


〔飄葛様、お待たせしました〕


と、淡海王は大きくがたいの良い人に変化し、待っていた飄葛の元に来た。


「我には嬉しく心強いですが、やはり無理をさせてましたか・・・淡海王殿」


〔何を言いますか、これは、わしが決めた事。そして、あなたはもうわしの主君、淡海とお呼びください〕


「分かった、では淡海殿、これに居ますはこれから共に旅をするイタチの妖、

科戸です」


<お二人と比べれば小物でございまするが、葛の葉様の命で飄葛様に仕えるものでございます。どうぞ、よろしくお願いいたしまする>


と、科戸は淡海に深々と頭を下げた。


〔科戸殿、頭を上げなされ、貴方からも強い妖力を感じます。

それに、陸では足手まといになるのはわしの方かと、久しく変化もしていなかったので足もおぼつかないほど、どうか同じ立場でお願いしまする〕


<いや、しかし>


「よいではないか科戸、上も下もない。我らはもう仲間だ、方苦しいのはやめようぞ」


<はい。では、よろしくお願いしまする>


〔飄葛殿の言う通りじゃ。科戸殿、よろしくお願いしまする。

楽しく参りましょうぞ〕


<はい、ありがとうございまする>


そして、一行は川原を歩き進んだ。


「ところで淡海殿、あの水の玉の威力は凄いものでした。

川の妖の特有の技ですか?」


〔螺旋水弾という技です。他の川の妖も似た回転のない小さな水の玉を打ちまするが、あれはわしだけの技でございます。水の術ならお任せを。

それより、飄葛殿がどう避けたか見切れませんでした。

飛沫(しぶき)ひとつもかからずとは、まったくもって理解できません〕


「捕らえられずが我の術。説明は難しいのですが、簡単に言うと術の発動時は違う時の中に居る感じです。そしてこれが隼という物の妖であり、我の武器です」


と、飄葛は隼を広げ見せた。


〔鉄の扇子とは珍しい・・・〕


「昔、人の首を切り回っておった妖です。

科戸と一緒に四天王寺に封印されていたのを盗んできたました」


〔まさか、あの四天王寺から?・・・妖が近づける場所ではないはず・・・

さすが葛の葉様の後子孫〕


と、科戸が。


<それは葛の葉様の命令であったのです。我は近づけなく、飄葛様がひとりで

忍び込み、盗みまいったのです>


〔あそこは天部の守りが居たはず・・・それが見過ごすとは考えられぬ・・・

それに封印とはおかしい話ですな、普通なれば封印などせず消滅させるはず・・・何か訳がありそうですな〕


「母様の圧力があったのか、意味があるのか・・・分からぬ事は全て天命とでも

しておこう」


〔飄葛殿は天にも選ばれた特別のお方かもしれませんな〕


<それは葛の葉様も言っていました>


「はっはは、我はその様なものではない。母様は偉大だが、我はただの

猫の妖じゃ。それより見よ、鴨の群れが飛んでおる。科戸、頼む!」


<はい!>


そう言うと、科戸は側に茂っていたアカネの葉を六枚摘み浮かせ、

飛んでいる鴨に目掛け放った。


<十羽ほどでよろしいか?>


「十分じゃ、頼む」


すると、六枚の葉は鴨の群れの中に飛び込み、それぞれ別の方向に散り舞い、

それぞれが見事に鴨の両羽を切り落とし、あっという間に

十羽の鴨を仕留め落とした。


〔おぉ、お見事!〕


<操れるぎりぎりの距離でしたが、これが我の術でございます>


と、それを飄葛が淡海と科戸が気付かぬ間に落とした鴨十羽を目の前に

積み上げていた。


〔やはり、凄い・・・〕<本当に>


「良い鴨じゃ。豪華な飯になったな」


〔ですな〕<はい>


そうして、一行は都に向かい順調に川原を進んで行った・・・。

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