2章・7話「淡海王」
飄葛と大川の主は大きな岩に座り込み、話した。
〔わしの名は淡海王(あふみおう)
わしは遠い昔、この川の元である淡海乃海(あふみのうみ)に住んでおりました。
そのころは今とは違い、毎日のように好き勝手に暴れておりました。
それに対し人は恐れ、法師、法力僧に頼み、
淡海乃海に善女龍王(ぜんにょりゅうおう)を呼んだのです・・・
龍をあやつる天部の神です。
いくらわしとて妖程度が適う相手のはずもなく、わしは命からがら手負いで
川に下り逃げました。それで、今この川の主となったのですが、
その逃げている途中に助けてくれ、傷を治してくれ改心させてくれたのが
葛の葉様だったのです。
善女龍王は追いかけて来ましたが、葛の葉様が現れたら、託すかのように
立ち去りました〕
淡海乃海とは今の琵琶湖である。
「そうでしたか、その話は初めて聞きました。母様の知り合いでしたか、
ご無礼お許しください」
〔なにを申しますか、知らなかったのはお互い様でしょう。
しかし、知らなかったとはいえ、恩を仇でかえすような無礼をしてしまった・・・
そして、力の差もおよぶものではありませんでした。
煮るなり焼くなり好きにしてくだされ〕
淡海王は手をつき頭を下げた。
「・・・ならば、ここで一度死んだ気で、我の旅の道連れになってくださぬか?」
〔旅?・・・この川から離れよと・・・・・・わかりました。
この出会いが偶然とも思われませぬ、わしの命、あなた様に捧げましょう〕
「真ですか?断れるかと思いました。川の守りよろしいのですか?」
〔今や主など名ばかり・・・この川も、もう人のもの同然にございます〕
「この、大きな川が人のものと?」
〔何もかも奪うが人であります。この川も、もう人の水路となって、
漁師も増える一方、人を力で抑えられぬ事は身をもって知っております〕
「・・・真、着いて来てくださるのですか?」
〔二言はございませぬ。しかし、朝まで待ってくだされ、主として最後に
川の皆に話しをせねばなりませぬ〕
「もちろん、そうなさるがお務めでしょう。
その話、我と川原にいる連れと共にお聞きしておきたいが、駄目でしょうか?」
〔いえ、承知いたしました。最後の務めを果たしまする。
皆をあの岸に集めましょう、しばしお待ちください〕
「はい」
と、淡海王は川の中に消え、飄葛は岸へと戻った。
<飄葛様!ご無事で!>
科戸が駆け寄った。
「大丈夫だ、元より話しをするだけと決めていたからな」
と、飄葛は科戸に全てを話した。
<葛の葉様とゆかりがあったとは、これも天命でございましょうか・・・>
そうして、しばらく待っていると、川原から川中から次々と色々な獣の妖、異形の妖が集まり、岸にいた飄葛をとり囲んだ。
<凄い数でございまするな・・・昨日の河童もいまするな>
「うむ、ざっと二百はいようぞ・・・我らに殺気を向けておる・・・」
<相手をせねばなりませぬか・・・>
身構える科戸。
「大丈夫じゃ、淡海王がお出になった」
淡海王が現われ、皆に向かい言った。
〔皆も見ておったとおり、わしはここにいる飄葛様に完敗した。
よって、わしは飄葛様に命を預け、共にこの川を離れる事にした〕
殺気と緊張で静まっていた周りの妖たちがざわついた。
〔静まれ!!〕
淡海王の一喝ですぐに静まったが、ほとんどの者がまだ飄葛と科戸に
殺気を向けていた。
〔わしがあのざまじゃ、ここにいる全員でかかっても敵わぬ相手じゃ。
丁度近々、皆に言うつもりだったことであった。心して聞くがよい!
わしら妖は人よりも長く生きているが、世代を変えながら人は進化を続けている、これはもう、わしらに止めることはできぬ、もう悠々とここで生きるのは
難しい・・・
この先、各々が生きる道を考えなければならん!この闇がまだあるうちにだ、
いずれ人は闇も無くしてしまおう、それまでに各々、生きる道をみつけ
生き長らえねばならぬ・・・
長き間、わしに付き従ってくれて、心から礼を申す!皆、ご苦労であった!〕
そうして一旦、淡海王の話は終わったのだが・・・
それを受け止めて納得するものは居なかった・・・。
2章・終。
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