2章・6話「大川の主」
飄葛と科戸はのんびり過ごし夜を待った。
そして、日が沈み暗闇の中・・・
「どうやら来たな・・・」
<なんとう荒々しい妖気・・・>
川の中央からゆっくりと姿を現せたのは、葛の葉と同じ白の体、
同じくらいの大きなカワウソだった。
眼光鋭く、離れていても突き刺さるような妖気だった。
<飄葛様・・・葛の葉様と同じ大妖かと、どうか穏便に・・・>
「あぁ、しかし、話をと思っていたが、殺気が凄まじいな・・・」
と、すぐに川の主が仕掛けてきた。
川の主は人ほどの大きな水の玉をこちらに放った。
「科戸!」
<はい!>
飄葛と科戸は大きく跳び、小屋から離れた。
その放たれた水の玉は小屋に当たり、一瞬にして小屋を木っ端微塵にした。
<あの、破壊力ただの水の玉ではござりませぬ>
「うむ、凄まじく回転した水の玉じゃ、あれならば、岩も簡単に砕け散ろう」
<回転?今の一瞬でそれを見極めるとは、さすが飄葛様。して、どうなさいますか>
「・・・科戸はここで待っておれ、我は近くへ行ってみる」
<行くといっても、川の主が居るのは川の真ん中あたり、どう行くのです?>
「問題ない、見ておれ・・・」
と、飄葛は川辺に近づいた。すると、川の主が言った。
〔この川原より去れ!〕
しかし、飄葛は足を止めず進んだ。
「我は我の好きなように。ただ都へ行きたいだけでございます。
少し話でもしませぬか?」
と、言うと、脇差にしていた隼を手に持ち、流れのある水面の上を陸と同じように歩いて川に立った。
〔若造、少しは出来そうだな。しかし、わしが去れと言っておるんじゃ!〕
と、飄葛に向かって、また先ほどの水の玉を放った。
そして、水の玉は飄葛に当たったかに見えた。水の玉は川の水とその底の土を
撒き散らし一瞬にして辺りの視界を奪った。
<飄葛様!!>
「我はここじゃ」
その声が聞こえる方に目をやると、飄葛は大分離れた水面に表情も変えず
立っていた。
〔ほう、なかなか素早いな、だがわしの目で追えぬほどでもないわ!〕
と、また飄葛に水の玉を放った。
大きな音と共に水柱が上がった。
しかし、飄葛もまた何事もなかったように離れた水面に立っていた。
〔わしを本気にさせるか・・・よかろう、両手で参るぞ!〕
と、今度は飄葛に向かって2つ放った。
しかし、当たらず飄葛はまた表情も変えず立っていた。
〔むむぅ、ならば連打ではどうじゃ!〕
それからは、次から次へと水柱が立ち、川は海のように波打ち、
しぶきで視界もなくなった。
大きな音だけが絶え間なく聞こえる状態がしばらく続き・・・
そして、静まった。
水しぶきが収まって科戸が飄葛を目にしたのは川の主の目の前だった。
その瞬間、川の主が鋭く長い爪を飄葛に振り下ろしたが、飄葛はそれをかわすと同時に隼を広げ川の主の爪だけを切り落とした。
〔うっ!馬鹿な・・・着物も濡れておらんとは・・・わしの完敗じゃ・・・〕
「ふぅぅ・・・ぎりぎりでかわすも水玉の回転に引きつけられ、
避けられたのは運が良かっただけです。我は水が苦手でして必死でした」
〔それにしても・・・いったい何者なのだお前は〕
「葛の葉に育てられし猫の妖、飄葛と申しまする」
〔なんと!あの葛の葉様に育てられたと・・・〕
「母様をご存知でありますか?」
〔知っているどころではない・・・〕
そう言って川の主は肩を落とした・・・。
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