3章・3話「土竜の常夜坊」
土竜の妖が一行を前にして驚いていたが、一行も同じであった。
「見たところ、かなりの長寿でありますな」
その土竜は白銀の体で不思議な妖気を放っていた。
[ほう・・・貴方が一同の主殿ですな、わしは土竜の妖、常夜坊(とこよぼう)と
申しまする。かれこれ千年以上は生きておる老いぼれでございます]
妖の中でも千年を超えて生きた妖は妖の中では崇められる存在であった。
〔千年以上とは、水を流すなど暴言、失礼しました・・・〕
淡海は深々と頭を下げ、それに合わせて飄葛と科戸も一礼した。
[淡海王・・・まさか貴方に出会うとは、噂通りの大妖ですな、
しかし、貴方ほどの妖が御付になっているとは・・・
主殿はかなりの大妖という事でしょう]
〔はい、葛の葉様の御子息でございます〕
[なんと!あの葛の葉様の・・・なるほど、道理でその妖気・・・]
そして、飄葛が言った。
「いえいえ、大したものではありません。それより常夜坊殿こそ、
坊と付くその名、先ほどの法力、一体何者なのですか?」
すると、常夜坊は地面にすらすらと字を書きながら話し出した。
[常夜とは常世と同じ意味でございます。常世とは死後の世の意味でございます。
一生を穴、闇で生きるわしへの皮肉ですな、そして坊は察しの通り
僧侶の意味でございまする。わしは人の中でも知恵や力を持つ僧侶に
興味を持ちましてな、人に変化し僧侶として三百年ほど生きたので、
この名を使っておりまする]
「人として、それも僧侶として三百年とは凄い・・・」
[妖とばれぬよう、転々と小さな寺で色々学びもうした。
少々の法力なら使えまする]
「法力まではいかずとも是非、人の事を聞き学びたいですな・・・
常世坊殿、我にその知恵と力を貸して頂けぬか?」
[・・・貴殿方は一体、何をなさろうとしておるのですか?]
「人というものを見極めたく、都を目指しておりまする」
[・・・]
常夜坊はしばし沈黙し言った。
[わしの手を握ってくだされ]
「はい・・・」
飄葛は常夜坊に近寄り、手を握った。すると・・・。
[・・・なるほど葛の葉様に育てられたのは真ですな・・・
そして、妖力の底が見えませぬ・・・]
「我の過去が見れるのですか?そんな事まで出来るとは凄い」
[読心術という術です。貴方様の記憶を見ておりまする・・・]
それは、しばらく続いた。時々、常夜坊が呟くことは全て当たっていた。
[なるほど・・・不思議なお方じゃ・・・わしはもう、ただの土竜として
余生を送るつもりで、断るつもりでしたが、この老いぼれの胸をかきたて、
見届けたいと思わせる魅力・・・そして、何より大きなる天命の持ち主と
感じました。老いぼれで役に立つかは分かりませぬが是非、
お供させてもらいましょう]
と、常夜坊は穴から出て老いた僧侶に変化した。
[飄葛殿、淡海殿、科戸殿、足手まといになるやも知れませぬが、
よろしくお頼み申す]
と、一礼をした。
〔わしが盾となり、お守りいたします〕
<同じく、よろしくお願いいたしまする>
「皆、大きな知力を手に入れた思いでいっぱいです。心強い限りです。
道すがら話し、色々と教えくだされ」
[もちろん、それがわしの役目だと思っております。何なりと聞いてくだされ]
「はい、では参りましょう」
そうして、また飄葛の一行に大いなる妖が加わった・・・。
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