2章・3話「扇子、我が物とする」


 飄葛は重苦しい空気の中、走り


とうとう金堂の目の前にたどり着いた。


「押し潰されるような重圧じゃ・・・これが法力なのか」


気を少しでも抜く事はできなかった。


「神を祀る堂、この中に本当に神がいるのか・・・この力は法師の法力、

結界というやつか・・・だが、進めぬわけではない」


と、飄葛は押し進み金堂にたどり着いた。


「美しい・・だが、流石に気分が悪くなってきた、長居はできんな」


そして、すぐに金堂の床下に潜り込むと・・・


(こっちだ・・・こっちだ・・・)


と、飄葛の脳裏に声が聞こえた。


飄葛はその声を頼りに床下を進んだ。


(そうだ、ここだ。この下だ、掘り出してくれ)


飄葛はいう通りにその下を掘り起こした。


すると、何やら紙が沢山張られた細長い木箱が出てきた。


(はやく持ち出せ、はやく・・・)


「言われぬでも、そうする」


飄葛は持ち運ぶために猫の姿に変化し、それをくわえ疾風の如く走り、

持ち出し、科戸のもとに戻った。


<ご無事で!>


「中は恐ろしいほどの重圧であったが、見つけたぞ、おそらくこれであろう」


と、科戸に木箱を見せた。


<御神札で封印されている・・・その場にあったのなら、おそらくそうでしょう>


すると、木箱がカタカタと震え、今度は脳裏ではなく声として聞こえた。


(仲間だろ、早く開放してくれ)と。


<やはり妖か>


(そうだ、我は扇子の妖、うぬが何者であろうと、襲ったりはせぬ)


「よし、開けてやろう」


と、飄葛が言うと、科戸がそれを止めた。


<辺りは寺院だらけ、場所が悪すぎます。この者の言う事も信じられまするな、

まずは、この場から離れましょう>


「そうだな、この国を出てからでよいか・・・」


(早く出たいが、我もこの場所は好かぬ)


<では、参りましょう>


そうして走り、摂津国を出た。


「もうよかろ、人の姿に戻ろうぞ」


<はい>


飄葛と科戸は人に変化した。


「科戸よ、後は我に任せてくれぬか」


<無論、御自由に>


そして、飄葛は木箱を手にし、揺らし言った。


「おい、お前は人の首を切り回った扇子か?答えよ」


(それを知っておいて盗み出したのだろう、この中からでも感じる強い力、

こちらが何者か聞きたい)


「我は飄葛、猫という獣の妖、葛の葉の子だ」


(あの葛の葉の?・・・なるほど、そういう事か)


「そういう事とは?」


(あそこに妖が入って、法師や天部の者が気づかぬわけが無かろう、

葛の葉と思われたか、とにかく見逃されたとしか思えん)


「言われてみれば容易過ぎたな・・・」


(まぁ、いい。それより何ゆえ俺を盗みだした?)


「お前を我の武器とするためじゃ」


(そういう事か・・・しかし、この俺に従えという事か?

それだけの自身があるのか)


「ある。試してみよ。今からお前を解き放つ、我にひとつでも傷を付けてみよ、

我はそれをかわし、お前を掴む自信がある。それが出来たら我の物となれ」


(なめられたものよ、俺の攻撃をかわし、掴むと?面白い、開放してみよ)


そして、飄葛は木箱の封印の札を取り開けた。

すると、風圧と共にそれは姿を表せた。


「なんと、鉄の扇子か・・・」


それは、見た事のない模様の鉄の扇子であった。扇子はヒラリ飄葛と科戸の頭上に浮いた。


「科戸、さがっておれ」


<はい>


科戸は間を大きく開けた。


「扇子よ、まいれ」


(なるほど・・・葛葉の子、真の様だな・・・しかし!)


扇子は飄葛に向い襲いかかった。


(!?)


飄葛と科戸が対峙した時と同じであった。


飄葛は何事もなかったように、扇子を手にしていた。


(なにっ!・・・離せ!離せ!)


「物の妖は初めてじゃ・・・小さきなれど大した力じゃ、だが暴れもできぬであろう、逃げようも我からは逃げれぬぞ」


(ぬぅ・・・)


すると科戸も言った。


<観念しろ扇子よ、約束であろう。それに飄葛様は大いなる妖じゃ、

使われる事を誇りに思え>


扇子は飄葛とつながり、その底見えぬ力を感じ、感服した。


「どうだ?」


飄葛はさらに妖力を高め、扇子は格の違いを思い知った。


(・・・わかりました・・・貴方様に服従を誓いましょう)


「うむ、よろしく頼む」


こうして、飄葛は葛の葉の試練でもあった、扇子を手に入れた・・・。

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