2章・2話「四天王寺、侵入」


飄葛と科戸は町に入り、四天王寺を目指した。

<南から北へと中門、五重塔、金堂、講堂という建物があり、それを囲うように塀が建っておりまする。

高く見えるあの塔が五重塔です。奪う扇子は金堂の床下に埋められているそうです・・・>

「簡単に手に入りそうではないな・・・」

<はい、近づくのも困難かもしれませぬ・・・>

「よし、昼間は人が多すぎる、夜まで待ち鼠に変化して、忍び込もう」

<その方が良さそうですな>

そうして、夜を待ち、それぞれ鼠に変化し、四天王寺を目指した。

「本当に、あちらこちらと寺院が多いところじゃな」

<はい。我々、妖には空気が重うございますな・・・>

「確かに近づくにつれ、体が重く感じるな・・・」

<はい・・・あれが四天王寺の入り口、中門にございます・・・はぁはぁ・・・>

「さすがに立派じゃ・・・それより科戸、息が荒いぞ大丈夫か?」

と、走る足を止めた。

<・・・この空気の中、妖力を使い変化して平気な飄葛様が普通ではないのですよ・・・はぁはぁ・・・>

「ならば、イタチの姿でよいぞ、この暗闇の中、人気も無い、そう目立つ事はなさそうじゃ」

<はい・・・そうさせてもらいまする・・・>

と、科戸はイタチに戻った。

そして、やっと中門の前にたどり着いた。

「目の前にすると、優美かつ神々しい・・・」

灯篭のわずかな光と月明かりが美しく照らし出していた。

<・・・あまりにも重々しく凄まじい威圧感・・・ここから入り込むのは危険かと、おそらくどの門にも天部の者が守りをしているかと>

「天部の者?」

<天に住む者、つまり神でございます>

「さすがにまだ出くわしたくないな・・・門は避け、壁を乗り越えるか」

<はい・・・>

飄葛と科戸は中門から遠ざかり、右手の角の壁に向かった。

「科戸が言ったとおり、威圧感が少し減ったな・・・」

しかし、壁にたどり着くと、科戸の様子がますますおかしくなっていた。

<はぁはぁ・・・駄目です・・・壁さえも法力で守られているようです・・・

耐える妖力がもちませぬ、体が何かに縛られたように動けませぬ・・・>

そう言って、壁を前にして科戸が固まった様に止まった。

「確かに体は重いし、反発の力を感じるが、我は動ける」

と、壁を触ってみせた。

<・・・それは、おそらく飄葛様が、邪念や心の迷いがないからか、

かけられた法力より妖力が強いのでしょう・・・

我はもう一歩なりとも動けませぬ、申し訳ございませぬ・・・>

「なれば、我ひとりで行ってこよう。元より我の試練じゃ、気にすることはない」

と、飄葛は鼠の姿のまま科戸に近づき、大きなイタチの科戸を持ち上げ、

少し離れた松の木にもたれかかせた。

「どうじゃ、縛りは消えたか?」

<はい、なんとか・・・>

「ここで待っておれ、行ってまいる」

<申し訳ありませぬ・・・どうか、無理なさらず、ご無事で戻ってください>

「あぁ、そのつもりじゃ・・・」

そうして、科戸を残し、飄葛は壁を登り、四天王寺の中に降り立った。

「本当に人の物作りは凄いな・・・」

飄葛は五重塔を見上げて、しばし呆然とした。

「人とは大したものじゃ、神とも通じているのだな・・・五重塔の向こう、

あれが金堂か、あの床下にあるのか・・・」

そうして、飄葛は金堂を目指した・・・。

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