2章・『淡海王』・1話「封じされし扇子」

2章・淡海王


2章・1話『封じされし扇子』

 母、葛の葉に別れを告げ、飄葛と科戸は信太の森を抜け、都へと続く道に出た。

「ふぅ・・ここを歩いて行けば都に着くのだな・・・」

<はい。しかし、まず隣の摂津国にまいりまする>

摂津国(せっつのくに)今の大阪府北中部である。

「摂津国?なぜじゃ?」

<まぁ歩きながら話すとしましょう>

「そうだな、とりあえず参ろう」

と、二人は摂津国に足を向け歩いた。

<これは葛の葉様の命令にございます。飄葛様は優れた術をお持ちにございますが、仕留めるとなると剣などの武器が必要でございます>

「確かに素手ではな・・・しかし、そのような物なれば、どこでも手に入ろう」

<確かに、我もそう思いましたが、これは葛の葉様の最後の試練かと、

意味のない事を命じる方ではございませんので>

「そうだな・・・摂津国で武器となるものを手に入れることが試練と?

あまりにも容易ではないか?」

<いえ、普通の妖なれば、避ける場所なのです>

「なぜじゃ?」

<古くから寺院が多い場所だからです>

「強い力を持つ僧侶、法師がいるということか・・・」

<はい、我も実際に出会ったことがありませぬので、どのような力を持つかまでは分かりませぬが・・・>

「母様から少し聞いた事がある。人にも妖力に似た法力とかいうものを使う者が居ると、だが大丈夫であろう、科戸も我も普通の妖ではないからな」

<しかし・・・葛の葉様の命令はただ摂津国で武器を手に入れろと、いうわけではないのです・・・四天王寺に行き、そこで封印されている扇子を飄葛様と盗み、

それを飄葛様の武器とせよと>

「なんと、名高い四天王寺が摂津国にあるのか・・・母様も無茶な事を命じてくれたな・・・して、その扇子とは、どのような武器なのじゃ?」

<それが、そもそも、扇子とは武器ではございませぬ>

と、科戸は道端の木の枝を手に取り、それを扇子に変化させた。

<このような扇の形をした人が暑い時などに扇ぎ風をあびる道具にございます。

武器になるような物ではないのです>

そう言って使って見せた。

「その様な物を我の武器にと?ますます分からぬな・・・」

<葛の葉様から聞いた話にございますが、その扇子には霊魂が宿っており、

妖の一種だそうです。しかも相当な悪い妖だったそうで、夜な夜な木の上で人を待ち、人が通るとふわり宙を舞い、人々の首を切って回っていたと・・・>

「なんと、邪悪な妖じゃ」

<はい。それを僧侶たちが捕まえようと躍起になれど捕まらず、その上の法師でさえ首を切られ、それを見かねて四天王寺の祖である、厩戸王(うまやどおう)が捕らえ封印して収めたそうです>

 厩戸王とは聖徳太子の当時の名である。

「その者の名、書で読んで知っているぞ・・・なかなか面白そうではないか」

<やはり・・・そう言うのではないかと思っていました・・・>

「急ごうぞ、その扇子とやらを手に入れに!」

 そうして飄葛と科戸は摂津国に向かい入った。

すぐ隣の国とはいえ、信太郷の里とはまったく違い進歩、発展した町であった。

「家屋も人も多いな・・・!あの高くそびえ立つものは何じゃ?」

<あれこそが四天王寺でありまする>

「あのような物を人が・・・これが人の世、人の力か・・・」

飄葛はしばし呆然と眺めていた・・・。

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