フランドル訪問②

 マルガレーテはカスティーリャ王女フアナの元へ行ってしまったので、フランドル伯城の中を歩き回ることにした。


 フランドル伯城の中を歩き回ると、ブルゴーニュ公の居城ということもあり、キール城に比べると、大層立派である。


 フランドル伯城の中庭へ行くと、侍女たちに囲まれた子供たちが遊んでいた。近付くと、侍女たちが子供たちとの間に入る。


 「ごきげんよう。公妹マルガレーテの夫のアルブレヒトだが、そちらにおわす御子たちは、貴人の子とお見受けするが、どなたかな?」


 私がマルガレーテの夫だと名乗ると、間に入っていた侍女たちが、避けていく。一人の年長の侍女だけ残り、代表して応えてくれる。


 「こちらにおわしますのは、ブルゴーニュ公閣下の御子息たちにございます。

 ブルゴーニュ公世子であるシャルル様、姉君のレオノール様、妹君のイサベル様でございます」


 年長の侍女の後ろから、7歳ぐらいの女の子と5歳ぐらいの男の子、4歳くらいの女の子が顔を覗かせている。


 俺が近付くと、一番年長の女の子が話しかけてくる。


 「貴方がマルグリット叔母様の旦那様なの?」


 クリクリとした大きな瞳で見つめてきながら、女の子は問いかけてきた。


 「そうですよ。私がマルグリットの夫のアルブレヒトと言う者です」


 「アルブレヒト叔父様と言うのね。私はレオノールよ。弟がシャルルで、妹がイサベルと言うの」


 レオノールの紹介で、弟と妹も名乗りでる。可愛らしいな。

 子のいないマルガレーテは、姪や甥がいるから、故郷のフランドルで過ごしたいのかもしれない。


 「これは、これは、名前を教えてくれて、ありがとうございます。今は何をしているのですかな?」


 その後、マルガレーテの子供たちとお話したり、遊んだりして過ごした。



 甥と姪と戯れた後、部屋に戻ると、マルガレーテが横になっていた。

 マルガレーテの侍女に話を聞くと、カスティーリャ王女フアナと話していたところ、体調が悪くなったそうだ。


 「何で、俺に伝えてくれなかったんだ?」


 俺は侍女を問い詰めると、マルガレーテが間に入る。


 「それは、私が報告するのを止めるよう指示したからよ。

 さっき、医者にも診てもらったのだけれど、子供が出来たみたいなの」


 「子供が出来ただって!?」


 マルガレーテの意外な言葉に、俺も思わず驚いた。


 「最近、月のものが来てなかったから、もしかしてと思っていたの。

 早とちりで貴方を失望させる訳にはいかないから黙っていたのよ。」


 「その気持ちは分かるけど、言ってくれれば良かったのに。

 とにかく、おめでとう、マルガレーテ」


 夜の夕食の際、フィリップ、フアナ、甥姪たちが祝福してくれた。

 フアナも親しいマルガレーテがいることで、精神的に安定しているようで、義妹の慶事が嬉しかったのか、機嫌が良かった。

 フィリップは相変わらずの調子ながら、妹の慶事を我が事のように喜んでくれている。

 マルガレーテは甥姪たちの祝福の言葉を大層喜んでいた。


 フランドル伯城でしばらく過ごしている間に、マルガレーテと今後のことを話し合った。

 やはり、マルガレーテは妊娠に対する不安が強いようで、故郷のフランドルでの出産を希望した。マルガレーテはヘントにて過ごすこととなるが、フィリップは快諾してくれた。

 そのため、俺だけがキールへ帰ることになる。

 フィリップには、聖アンデレの祝日である11月30日にフランドルで、『騎士団集会(総会)』が開かれると告げられた。

 宗教行事を中心に、騎士団の査問、裁判、新団員選出が1週間から1か月にわたって行われるそうだ。

 そこで、俺を新団員に選出してくれるそうで、そのまま騎士叙任を行うので、11月30日までにフランドルへ来るようにと言われた。

 そのまま、年が明けたら、フアナとともにカスティーリャへ向かうので、同行するよう頼まれた。


 カスティーリャに行ったら、二度とキールに戻ることは無いだろう。キールの代官を姉に返上しなければならない。

 そして、新大陸へ向かう準備も仕上げなければならないな。

 新大陸へ向かう準備をするため、俺はマルガレーテをフランドルに残し、キールへと帰るのであった。

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