フランドル訪問

 「ケーニヒ・フィーリプ」に乗り、俺とマルガレーテはフランドルへ向かった。アントウェルペンの港へ向かい、そこから陸路でフィリップの本拠地であるヘントへと赴いた。


 アントウェルペンの港に着いて思ったが、俺が代官を務めるキールより遥かに大きな都市である。目的地がヘントのため、馬車で通り過ぎただけだが、大きな建物が建ち並び、市場は活気に溢れており、街中を歩く民の数も多い。

 前世の東京に比べれば大したこと無いかもしれないが、この時代では有数の大都市だろう。


 ヘントのフランドル伯城へ到着した俺たちは、義兄のフィリップへ到着の挨拶をする。案内された部屋に入ると、義兄と侍従しかいなかった。

 義姉であるフアナは調子が悪いのか、わざと外されているのか同席しないようである。


 「義兄上、キールより到着致しました」


 「おぉ、義弟よ。よく来てくれたね。僕が贈った船に乗ってきてくれたのかな?」


 「勿論です。義兄上が贈ってくださった『ケーニヒ・フィーリプ』でアントウェルペンまで乗ってきましたよ。義兄上が贈ってくださった船は最高です」


 「な、何だって!?さっきの船の名前をもう一度言ってくれるかい?」


 フィリップが贈られた船に付けた名前に食いついてくる。


 「『ケーニヒ・フィーリプ』ですか?偉大なるカスティーリャ王であらせらせる義兄上が贈ってくださったので、『ケーニヒ・フィーリプ』と名付けさせていただきました」


 「ふふふ。君も分かっているじゃないか。流石、僕の義弟だ。

 しかし、カスティーリャの馬鹿貴族どもは何も分かっていないんだ!あの分からず屋の姑も舅もね!

 ヤツらに真のカスティーリャ王が誰だか分からせてやらなければならない!」


 フィリップのご機嫌取りは上手くいったようだが、カスティーリャ貴族たちが、自身を王と認めないことを思い出したのか、興奮し始める。


 「その通りです!義兄上!

 真のカスティーリャ王は義兄上しかおられません。

 義兄上が真のカスティーリャ王であることをカスティーリャの馬鹿貴族たちに分からせてやる必要があります!」


 ここは、更にフィリップの機嫌を取るために、調子を合わせてやることにする。


 「その通りだよ。義弟よ。

 近い内に、フアナを連れてカスティーリャに乗り込んでやろうと思っているんだ。

 未だにカスティーリャは、姑のイサベルが亡くなった後の王を定めていない。

 それどころか、舅のフェルナンドが摂政として牛耳っている始末だ。この悪しき状況を正さなければならない。

 だから、僕たちがカスティーリャに行く時は、義弟にも付いてきて欲しいんだ」


 フィリップは夫婦でカスティーリャに乗り込むつもりのようで、俺に付いてきて欲しいという。

 ご機嫌取りが上手くいったからか、少しは信頼されているようだ。カスティーリャへ行くのは、こちらも都合が良い。


 「勿論です。義兄上のお力になれるなら、喜んでカスティーリャまで付いてきて行きましょう。」



 俺は、義兄とともにカスティーリャへ赴く約束をしたのだった。

 義兄への挨拶が終わった後、与えられた部屋にマルガレーテと入ると、妻に小言を言われてしまった。


 「貴方、兄上の機嫌を取りたいからって、媚びへつらい過ぎよ。

 兄上は余り物事を深く考えない質だから喜んでるけど、兄を煽てすぎるのはやめて頂戴」


 「ゴメン、ゴメン。だけど、義兄上は喜んでらっしゃったじゃないか」


 「もぅ、仕方ない人ね。本当に義兄上たちに付いて、カスティーリャへ行くつもりなの?」


 マルガレーテはカスティーリャへ行くことに乗り気でない様子で尋ねてきた。


 「勿論!義兄上とともにカスティーリャへ赴けば、それだけインドへ近付くじゃないか。義兄上に頼めば、インディアス総督にしてくれるかもしれない。

 マルガレーテも俺たちのために協力してくれよ。」


 「はぁ・・・。私は義姉上が心配だから会ってくるわ」


 俺とのやり取りに呆れ果てたのか、マルガレーテは義姉のフアナへ会いに行った。

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