アルブレヒトの結婚②花嫁との邂逅
義兄フィリップのせいで疲れた後、デンマーク王ハンスや妹のウルスラの夫であるメクレンブルク=シュヴェリーン公ハインリヒ5世と言葉を交わす。
ハンス王も何だか疲れた様子で、王太子のことについては聞けなかった。弟のフレゼリクが相手をしている。
義弟のメクレンブルク=シュヴェリーン公ハインリヒ5世は、御近所さんなので仲良くしたい。
リューベックの大商人マティアス・ムーリッヒも来てくれた。祝いの品を大層弾んでくれたようで、大変ありがたい。
いよいよ、婚礼が始まる。シュレースヴィヒ司教のヘニンヒ・フォン・ポクヴィッシュが式を執り行った。
式が始まって、初めて妻となるマルグリットの顔を観ることが出来た。ちょっぴり顎が出ているが、なかなかに美しい。義兄の様な顎では無くて良かった。
まぁ、10歳年上だが、何とかなるだろう。
俺と結婚したことで、マルグリットはドイツ名のマルガレーテ・フォン・エスターライヒと名乗ることとなった。
式を終えて、彼女と二人になったので、話をしてみると、彼女はとても理知的な女性であった。とても話術が巧みであり、気遣いの出来る女性で、本当にフィリップの妹とは思えない。
彼女と大分打ち解け始めると、マルガレーテは自身の心情を打ち明け始めた。
「実は、私は貴方と結婚するつもりはありませんでした。
最初の夫とは、死別し、子も流れました。次の夫とも死別し、そのような悲しみを二度と味わいたくなかったからです。
貴方との結婚を承諾したのも、領地の無い貴方と結婚したなら、故郷のフランドルで過ごせると父が言ったからです」
「そうか。確かに、夫と死別したのは、辛かろうな。
まぁ、領地無しの俺と結婚すれば、フランドルに行けるな。
義兄上が金羊毛騎士団の騎士に任命してくださるそうだから、近い内に、フランドルへ行こう」
「本当によろしいのですか?こんな女を妻に迎えて?
それに、前の夫との間には子は出来ませんでした。陰では石女と言われていたのは知っています。
私は貴方の子を産めない可能性が高いのですよ?」
「子は主からの授かり物であろ。出来るときは出来るし、出来ない時は出来ない。出来たら儲けものだと思えば良いじゃないか。
それに、継がせる領地も無いからな。別に子が出来なくても構わんだろ」
「そうですか・・・。確かに、主の授かり物ですから、出来る時は出来ますね・・・」
マルガレーテは拍子抜けした様だ。
本当は結婚するつもりは無かったこと、自分は子供を産めないかもしれないなど、本音を語ってくれた訳だが、深刻に考えすぎだ。
子が出来ても、そもそも継がせる物が何も無いからな!
キールだって、姉の寡婦財産だから、俺の物じゃない。だから、妻がフランドルに行きたいなら、一緒に行っても問題ない。
妻の持参金も、再々婚のためか領地は無く、金と嫁入り道具だけだったからな。
その分、金は多かったけれど、持参金はそもそも妻の持ち物なので、勝手に使えない。
子供が出来たら、遺せるものは俺の僅かな財産と、妻の財産くらいだろう。気楽に考えれば良いな。
妻が本音を語ってくれたので、俺も自分の本音を語ることにする。
「俺もマルガレーテに話しておくことがある。
俺は昔から、船乗りになりたかった。そして、インドに行くのが夢だ」
「船乗りに、なってインドに行くですって!?」
俺の突拍子も無い発言に、妻のマルガレーテは唖然とする。
「俺が君と結婚したのは、兄や姉が縁談を進めたこともあるが、カスティーリャの継承権のあるフアナ王女の夫であるフィリップの妹であるのも大きい。
トルデシリャス条約により、インドの大部分はカスティーリャ=アラゴンの領地になってしまった。
インドに進出するには、カスティーリャに認めてもらう必要があるからな」
「確かに、トルデシリャス条約がありますから、カスティーリャ=アラゴンの許可が無ければ進出出来ないでしょう。
そうなると、カスティーリャの継承権を持つ義姉上とその夫である兄上に接近するのは理に叶っていますね
しかし、インドに領地を持つとなると、貴方はカスティーリャの家臣になるつもりですか?」
元々、合理的な考え方の持ち主なのだろう。俺の意図を理解してくれたようだ。
「いや、俺はカスティーリャの家臣になるつもりはない。
俺がなるのは、カスティーリャ王フェリペの取り巻きだ。
なので、マルガレーテには、義兄上に、俺にインドへ行き、領地を持つ許可をくれるように口添えして欲しいのだ」
俺はニヤリと笑い、カスティーリャの家臣ではなく、カスティーリャの僭王である義兄フィリップの義弟として、インドに赴き、インドの領主になるのだと伝える。
マルガレーテも賢いから、察したようであった。
「はぁ・・・。私は義姉のフアナとは仲が良いのですよ。
しかし、愚かな兄上の味方も増えて欲しいのが本音です。
かつて姑であったカスティーリャ女王イサベルが生きていたなら断っていたところですが、亡くなられた今なら、兄のために貴方に協力したほうが良いのでしょう」
妻は呆れつつも、俺のやりたいことが兄のためになると理解してくれたようだ。
「俺はインドへ行く、君は故郷のフランドルで過ごす。
お互いの思い通りになって良いじゃないか」
「貴方は、今までの夫の中では最低です。
妻をフランドルに残すのですから、せめて子だけは残してからお行きなさい」
妻に最低認定されたが、インドへ向かうことは認めてくれたようだ。
そのためには、彼女へ子を残してやらねばならないらしい。俺は、インドへ行くために、夜の営みを頑張ることとなったのだった。
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