アルブレヒトの結婚①義兄との出逢い
兄と姉で話を進めていたマルグリットとの縁談は上手く進んだようだ。噂によると、マルグリットは結婚自体に乗り気では無かったようだが、領地無しの俺と結婚するなら、わりと自由に好きなところで過ごせると説得されて合意したようだ。
そして、婚姻は彼女が過ごしていたフランドルからも海路で比較的近いことから、キールで結婚式が執り行われることとなった。
この結婚式には、新婦側から、兄のフィリップとその妻でカスティーリャの継承者のフアナが来ることになっていた。現在のヨーロッパ一の爆弾夫婦が来るなんて、俺の結婚式は大丈夫なんだろうか?
1505年にキールで、俺とマルグリットの結婚式が執り行われた。
式は兄や姉の時と同じく、シュレースヴィヒ司教のヘニンヒ・フォン・ポクヴィッシュに執り行ってもらう。
参列したのは、新郎側だと兄のヨアヒム・エリサベト夫妻、姉のアンナ・フレゼリク夫妻、妹のウルスラ・メクレンブルク=シュヴェリーン公ハインリヒ5世夫妻だ。
ヨアヒムの妻のエリサベトは、男子を産んだばかりだが、来てくれた。体調は良さそうで安心する。
デンマーク王ハンスもわざわざ来てくれたが、王太子のクリスチャンは来なかったので、助かった気分である。
新婦側は、新婦の兄フィリップ・フアナ夫妻とフランドル貴族たちであった。
フィリップは、狩りや槍試合が得意で、話術も巧みな、美貌の「素敵な貴公子」と呼ばれているらしい。かなりの美男子だそうだが、実物と会ってみると、ハプスブルク家特有の顎が気になって仕方がない。
金髪や服装は身綺麗だが、どこが美男子なのか、世の貴婦人たちに問いたいものだ。
スペイン王位継承者のフアナをチラッと観ると、精神的にヤバそうなのが観て取れる。完全にメンヘラ拗らせてヤバいヤツや。関わらんとこ。今回、参列したのも、仲の良い義妹のマルグリットの結婚式にどうしても出たかったからだそうだ。
「やぁ、君が僕の義弟になるアルブレヒトかい?僕が君の義兄になるカスティーリャ王のフィリップだよ。」
何だか癪に障る話し方をするヤツだ。本当にこいつの話術は巧みなのか?ちゃっかりカスティーリャ王を自称してるし。
「おぉ、貴方が義兄上ですか。お目にかかれて光栄です。
貴方の弟になるアルブレヒト人です。何卒、よろしくお願いいたします」
「ふふん。妹を不幸にしたら、許さないからね。」
「勿論、妹君を幸せにしてみます。
そして、カスティーリャ王で在らせられる義兄上のお力になれるよう尽力致します」
義兄を味方につけたいので、ヨイショしますよ。
「ほぅ、君も分かっているじゃないか。
姑が亡くなったから、僕がカスティーリャ王になるはずなのに、それを認めないヤツが多すぎるんだ。
特に舅なんて酷いもんだよ。僕からカスティーリャ王の座を奪おうと企んでいるんだからね。
君は僕をカスティーリャ王と認めているようだから、理解力と高い義弟を持てて頼もしい限りだよ。
是非とも、僕のために働いて、尽くして欲しい」
勘違い甚だしいヤツだな。カスティーリャの継承法とかちゃんと理解してんのか、コイツ?
お前はどう考えてもカスティーリャ王じゃないけどなとツッコミたい気持ちを抑えつつ、一生懸命ゴマを摺る。
「義兄上のために、尽くすのは義弟として当然のことでございます。義兄が真のカスティーリャ王となり、ローマ皇帝となれるよう、私めに協力させてくださいませ」
「ほう、君のことを気に入ったよ。君は後で、金羊毛騎士団の騎士にしてあげよう。
僕のために、尽くせば、しっかりと報いてあげるよ」
金羊毛騎士団の騎士になれるだと!?それは、本気で嬉しいな。
「ありがたき幸せ!」
思わず、本気で感謝してしまった。フィリップは気に食わないけど、金羊毛騎士団の騎士に与えられる頸飾は是非とも欲しかったのだ。
こうして、腹立たしい義兄との会話は終わった。一生懸命、ゴマを摺ったお陰で、義兄には気に入って貰えたようだ。
まぁ、義兄のクズっぷりを確信出来たのと、金羊毛騎士団の騎士になれるのは、大きな成果だろう。
フィリップは基本的に人としておかしいからな。
1501年11月に、フアナとカスティーリャへ向かう途中、海路を嫌い、ハプスブルク家の敵であるフランス経由で向かって、フランス王ルイ12世に対して、フィリップは全く気にせずフランス宮廷での歓待を謳歌したらしい。
自分の立場とか全く理解してないだろとツッコミを入れてやりたい。お前の親父の敵だってこと分かってるのか?
カスティーリャ到着後は、フアナの両親であるイサベル女王とフェルナンド王に対し、フアナが精神異常をきたしていると喧伝した上で、自身の王位継承を要求したとか、普通に考えておかしいだろ。
しかも、フィリップは、スペインの乾ききった土地と謹厳で信心深い人々を嫌い、臨月の妻を残し、故郷のフランドルへ帰ってしまったとか、ツッコミどころ満載である。
イサベル女王はフィリップが君主の資質に欠けることを見抜く。遺言に、フアナのカスティーリャ到着まで、または統治困難な場合は、フェルナンドが摂政として、カルロスの成人まで、政務を執り行う旨を遺したらしい。そりゃ、当たり前だわな。
1504年11月にイサベル1世が崩御し、先述の遺言の存在が明らかになった。
すると、フィリップは激怒し、フアナを脅迫したり、あるいは結婚当初のように愛情を装って懐柔し、フアナに王位継承権を放棄させようとしたらしい。当然、フアナは頑なに、これを退けたそうだ。
どう考えても、フアナよりフィリップのほうが心を病んでいるか、脳に異常があるとしか思えない。
取り敢えず、フィリップがカスティーリャ王を名乗るのが、義姉のフアナの前で無くて良かった。フアナの前だとゴマ摺りの難易度が急上昇してしまう。
フアナは新婦のマルグリットの側にいたらしく、後で会うが、見た目はメンヘラっぽくてヤバいが、話してみると意外とマトモであった。
結婚式の前なのに、何だか疲れてしまった。
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