その後、私は着々と任務をこなしていった。


 今のところ皆勤賞。今宵も例のイケボに起こされる。


『エリーさん。体調は大丈夫ですか?』


「うん。学校では居眠りしてるから大丈夫!」


『それは大丈夫と言えるのでしょうか……』


「まあまあ。あ、それとさ“イレ”、――」


 “イレ”とは私が悪魔につけた便宜上の名前。


 私の名前ERIエリを逆から読んでIREイレ

 初めて出会ったときに鏡写しみたいになっていた事が由来。



『お喋りしている間につきましたよ……ああ、これは……』


 イレに言われなくても私は一目見てやばいとわかった。


 場所はお台場ダイバーシティ。

 普段ならあれが立っているところにその三倍くらいの大きさの怪物が君臨していたのだ。


 黒光りする固そうな外殻は鎧を重ね着したような構造。

 両腕のガントレットには赤黒いソードが装着されていて攻撃力も高そうだ。


「これってまさかSSS級?」


『はい。間違いなくSSSです。こいつが暴れたら災害級の被害が出るでしょう』


「でもさ、相手が強いほど私の力も増すんだよね?」


『はい。いくら敵が強そうに見えても、おそらく今のエリーさんなら20%くらいの特殊兵装で致命傷を与えられると思いますよ』


「おそらくってどれくらい?」


50対50フィフティ・フィフティです』


「うん、絶対言うと思った。じゃあ、おしゃべりはこれくらいにして行きますか」


『いいですか、まずは相手の出方を伺ってから……』


「大丈夫! ちゃんとわかってるから任せてよ」


 ――早くイレに一人前って言わせたいんだから! 



 それとちょっと試して見たいことがあった。


 怪物にはそれぞれ間合いがある。

 基本的にこの間合いに入らない限り向こうから襲ってくることは無い。


 だからその間合いの外から長距離射程の必殺技をかませばステルスキルできるんじゃないかと。


 私的にはあまり面白くない戦い方だけど一度実験してみたくて。


 あまり浪費し過ぎたらイレに怒られるからエネルギー消費は20%。

 減衰するかもしれないから凝縮した一点突破攻撃で。


 ――よし、イメージが固まった!


 私はスナイパーみたく両手を顔の前に構えた。


「全力の(20%の)思いを込めて! デッドリー・ストライク(仮)!」


 叫ぶと、私が銃に見立てて突き出した左指の先に未知のエネルギーが急速に収束し、超高速で発射された。


 あまりの熱量に周囲の空気がプラズマ化して歪む。


 狙いは頭部。


 このままいけばキル確定。



 しかし、私の予想に反してSSS級の怪物は咄嗟に左手で顔面を覆い攻撃を弾いた。


 ――あーあ、外れちゃった。でも、まあいっか。


 狙いの場所に直撃はしなかったものの、左のガントレットは破損させたし左手はもう親指しか残っていないので使い物にならないはず。それに20%の力で装甲を剥がせる事が分かった。


 ――さて、どうしようか……って! え⁉



 私の視界は急に真っ暗になっていた。


 いや、何が起こったのかは最後にちらと見えた光景で想像がつく。


 あろうことかあの巨体で超高速の突進をかまし、私を右手で握りこんだのだ。


 絶叫系アトラクションの自然落下みたいに肝が冷える感覚の後、ざっぱーんと着水して減速する感じ。


 幸い海上から攻撃を仕掛けていたため、一般人への被害はなさそうだ。


 それに標準兵装のおかげかあまり苦しくない。

 しかし、ガッチリ固められているせいか拘束を解くほどのパワーが出せない。


「イレ! 何も見えないんだけど、どうしたらいいの⁉」


『これは困りましたね。視界が見えないとなると特殊兵装を使用することもできませんし、はっきり言ってお手上げですね』


 姿は見えないが声だけが頭に直接響いてくる。


「お手上げってどういう事⁉ 私このまま握り潰されちゃうの⁉」


 私がそう呼び掛けるがイレは何も答えてくれなくなった。


「え? 私本当に死んじゃうの? え? ……嘘……だよね……。ね、イレ! 嘘って言ってよ! イレ! イレ! イ――」



 急に暗黒の世界から解放された。


 下を見るとSSS級の怪物が光の檻に入れられうずくまっていた。



「え……何が起こったの?」 


 近くにはイレの姿もない。

 

 あたりをキョロキョロしていると何かフワッとしたものが頬を撫でた。


 ――羽?


「危ないところでしたね」


 その声の先を見上げると、純白の布地に金の意匠が施された服装を身にまとった水色の髪の少女がいた。


 私のポップ調の翼なんかよりも数段リアルな翼。彼女がそれを幽玄にはためかせるたびに、綺麗な羽が宙を舞う。


「あなたもしかして別の魔法少女? 助けてくれてありがとう! 私は――」


「魔法少女? あなたは一体何を言っているのですか?」


「え?」


「私は執行者エンフォーサー。あなたの罪を裁きに参りました」

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