ただ今、日曜の午後四時です。






 高い電子音が耳に響く。意識を取り戻した武田は猛烈な眠気を感じた。それでも音の発生源に手を伸ばす。

 きっとスマートフォンの着信に違いない。早く電話を取らなければ。

 そこで電子音は途絶えた。相手が通話を諦めたのだろう。

「何だよ……」

 不機嫌な声とともに起きあがる。武田は寝起きが悪い。

 スマートフォン片手に周囲を見渡す。まだ時間の感覚と記憶が定かではない。

 近くにはふたつの死体……もとい、上杉と伊達が倒れていた。自分と同じく眠っているだけだ。

 リビングの時計は午後の四時を示している。

 テレビはつけっぱなしで映画を見ていたらしい。DVDがまだ再生されていた。

 テーブルにはいろいろなものが散乱している。オーブンの角皿にクッキングシート、まな板に包丁。皿やアイスクリームの容器。ジャムの瓶、ドライフルーツの袋など。

 荒れ果てた惨状からようやく記憶が戻りつつある。

 目的は洋画鑑賞と思われる。上杉と伊達が突撃訪問をして、最近話題のアクション映画のDVDを持ってきた。昼食もそこそこにビスケットサンドウィッチなるものを作り、爆食いして爆睡したらしい。

 ちなみにビスケットサンドウィッチとはビスケットの間にアイスクリームやジャムを挟んだお菓子のことである。冷房の効いた部屋で熱い紅茶と共に堪能した……なんてものじゃない。本当に爆食いという言葉が似合うようなおぞましい光景だった。上杉とふたりで作った端から伊達に平らげてしまう。ドライフルーツだのクリームチーズなど工夫を凝らしても伊達の胃袋に収まるだけだった。

 そこで力尽きたのだと思う。伊達は満腹になって爆睡したのだろう。上杉は、何故寝たのかよくわからんが。


 現状を理解したところで武田はスマートフォンと見る。電話をかけてきた人物が気になったからだ。着信履歴を見て目を剥く。


 相手は三条だった。


 すぐさま電話をかけるもコール音あとすぐに録音電話のアナウンスが流れる。電源が入っていないのか。怒っているのか。

 武田はサッと青ざめる。


 忘れていそうだからあえて説明しよう。三条とは武田の彼女である。

 彼女が電話をかけてくることなどめったにない。

 予定がキャンセルになっても、会えばにこにこと笑って了承する心が広い彼女である。きっと大事な話に違いない。


 心当たりがありすぎた。別れ話かもしれない。


 武田はくるりと悪友ふたりに向き直った。


「起きろ、おまえらぁぁぁぁぁ!」


 八割どころか十割すべて八つ当たりだった。






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