川魚は足が速いです。
さらさらと水音がする渓流。
武田と上杉はいた。
「釣れねえなー」
「そうだな」
両者、釣り竿を手に佇む。
「キャンプと言ったら魚釣り!」という提案により今日の夕飯の捕獲作戦を展開しているわけだが成果は芳しくない。
釣りはせっかちの持ち主だとよく釣れるらしい。どんな理屈だ。
ともかく上杉ともども釣りの才能はないとみる。かれこれ二時間近く続けているがヒットした気配すらなかった。
そこへ朗らかな笑顔を浮かべる悪友がやって来た。当たり前だが、あいつが全ての元凶である。
「いやあ、大漁大漁」
得意満面の伊達がムカつく。バケツとクーラーボックスを両手に持って駆けてくる。
武田の内心も知らず、逆撫でするのだけはうまい。
「武田。鯉料理が食いたい。作って!」
「鯉はいやだ。骨が多い」
にべもなく武田は偏見じみた意見で一刀両断した。子供の頃、鯉料理で苦労した苦い記憶が蘇る。
「むしろ、こっちを料理してみたいな」
武田はちらりと足元を見る。水の入ったバケツに何匹か魚が入っている。伊達の戦利品だ。
ウグイやオイカワ、オオタナゴなど小ぶりだがバラエティに富んだ魚が泳いでいた。川魚料理は初めての経験だ。どうせなら食べたことのない魚で挑戦してみたい。
ついでにいうなら例の織田たちも釣り興じている。今頃、三人でそれぞれ縄張りを主張しているに違いない。騒げば魚が逃げるということはあえて言うまい。
「ああ、いかん」
何かに気づいたように伊達がさっとバケツを引ったくる。
「こいつらは放す」
「なんでだよ」
「んで、こっちのブルーギルとブラックバスは食う」
「なんだ、その違いは」
当然の疑問に伊達は舌を鳴らして、ひとさし指を左右に振る。
「環境に配慮する結果さ。われわれ人間は、自然の恩恵を受けているのにも関わらず、環境を変えているとは思わないかね?」
「あん?」
武田は眉根を寄せた。
どうしよう。あほが意味不明なことを言い出した。
「特に、海外から持ち込まれた生物がいい例だろう。外来生物を駆逐するために釣って食べる!」
上杉は大きく頷いた。
「一理ある」
「いや、テレビの影響だろ」
武田が突っ込むと伊達はあくまで食い下がる。きっと環境問題をテーマにした番組あたりに影響を受けたのだろう。
「違うよ、YouTubeだよ」
「あんまり変わらんな、そこは」
よくわからない反論に素直な感想を述べた。
ちなみに今日の献立は、ブルーギルの天ぷら、バターソテー。ブラックバスの塩焼きと甘酢あんかけになった。
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