BBQはいかがですか?






 卵と生クリーム、砂糖を入れて混ぜる。

 武田がバニラエッセンスの瓶を手にした時、空気を切るような音が響いた。

「やった! 三連勝~」

 ラケットを掲げて嬉しそうに笑うのは伊達。スマッシュか何かを決めたのだろう。

「ふっ、美しい者の勝利だよ」

 隣で優雅に笑うのは徳田。伊達の功績を自分の手柄にしている。ダブルスを組んでいるらしい。

「くそォォォォ」

「よせ。見苦しい」

 対峙する羽柴は顔を真っ赤にして怒りを露わにするが、織田がすっぱり一刀両断にする。

 男四人でバドミントンに興じている方が見苦しい気もしたが、武田は何も言わなかった。


 今日はキャンプ場でバーベキュー。

 などど、いつものように伊達が提案した。しかも例の三人組まで一緒だ。

 拒否権はない。気が付けば昼食の用意に忙しい。

 メニューは鶏モモのから揚げ、豆腐ナゲット、明太子とポテトのアヒージョ。エビのパセリ焼き。

 上杉とふたり、無心に準備を整える。でなければ恐ろしいことが待っていそうだからだ。

「たっけだ~、お腹空いた~」

 来た。まずは第一弾。

 武田は先ほどの材料にバニラエッセンスを加えてビニール袋に流し込んだ。

「これ振り回しとけ」

 袋を二重にしてさらに氷を入れた袋の中へ。中身が混ざらないようそれぞれ厳重に口を縛って伊達に手渡した。

「なにこれ」

 当然、不思議そうに袋を見つめる悪友に武田は答える。

「それ振り回したらデザートが食えるぞ」

 いろいろ雑な対応なのに伊達は気にしない。驚きながら目を輝かせた。

「なんと!」

「中身こぼすなよ」

「合点承知!」

 注意点も雑なのに伊達は袋を振り回しながら駆けていく。

「貸せ。俺の方が早く回せる」

「阿呆。袋がちぎれる」

「これだから脳みそ筋肉のゴリラは……」

「みんな順番こにやろうねー」

 新しい勝負事に興味が移ったらしい三人組プラスひとり。

 なんだかんだいって同類なのだな、としみじみ思う武田だった。

 あの無駄なエネルギー、使わないともったいないと常々感じていた武田である。あの様子なら準備が終わる頃にはアイスクリームが完成していることだろう。


 しかし、それはそれである。

 武田は上杉と顔を見合わせて小さく頷く。

 急がないと破滅の時は近い。あの四人の腹の虫の音が一斉に鳴り出したら。

(次はから揚げとアヒージョだな。あとバーベキューソースも作らないと)

 量も品数も多めに計算したが攻略されてしまったらどうしよう。

 不安を抱えながら肉やじゃがいも、エビと格闘するふたりだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る