花火、一緒にどうですか?
初夏の夜。
武田家の庭が騒がしい。
「上杉~、ちゃんと撮ってる~?」
「問題ない」
名前を呼ばれた上杉はスマートフォンをかかげて動画の撮影をしている。
「みてみて。レイズ・パレードだよ!」
「よかったな」
伊達が両手を振りあげる。
ナイアガラの滝を思わせるような火花がまさに滝のように降り注ぐ。
危険な持ち方なのに、上杉は注意しなかった。悪友のテンションに影響されず、淡々と撮影業務に徹する。
ここまでは普段の光景だが、
「ちょっと。羽柴。狭いよ」
「うるさいな。おまえが詰めろ。チャラ男」
「……」
ぶつぶつと文句の声が聞こえてくる。
徳田、羽柴、織田の三人が肩を寄せ合って花火をしていた。
「なんで、またこんなことに……」
「知るか。そっちの花火よこせ」
「……」
律儀にバケツを囲み、線香花火を楽しんで(?)いる。はた目から見ればかなりシュールな光景に違いない。体格のいい男子三人が密集している訳だから。
流れはいつもの通り、勝負を吹っかけようとして、昼食と夕食をごちそうになり、花火を一緒にすることになった。
伊達たちは最初から予定を消化しているだけである。連日のように真夏日が続いたため、伊達が花火をしようというひと言から始まった。つまりは、そんな日常。
「あ。落ちたじゃん。羽柴が邪魔するから」
「何だと? 言い訳とは見苦しいな」
「もういい。ふたりとも黙れ」
不穏になった空気に織田がきっぱりと斬り込む。その背中は疲労と悲壮感が漂っている。
俺は、一体なにをしてるんだ的な。
「はいはい! 次は、伊達政宏!」
そこに、はしゃいで挙手する伊達。無造作に近くにあった花火を掴む。
「ドラゴン、いっきまーす!」
「伊達くん!?」
「阿呆、こっちに向けるな!」
「伊達。それは持ってはいけないヤツだ」
恐れおののく三人。
当然だが、そんなことで伊達は止まらない。
「イッツ・ファイヤー!」
「!」
勢いよく着火し、三人に向けてくる。
「だ――ッ!」
「だ、伊達くん、それは反則……ぎゃあぁぁぁぁッ! 僕の美しい顔があぁぁぁぁッ!」
「最悪だ……」
悲鳴やらため息やらの合間に火花が飛び散る。三人の男たちは逃げ惑うしかない。
「おーい。スイカ切れたぞー」
悲鳴にも動じずに、武田が盆を手に室内から出てきた。上杉は撮影を止めて縁側に座る。
「あははは! 待て待て~」
伊達が無邪気に追いかけまわす。
「何をやっているんだ、あいつら」
「さあ」
逃げる三人と悪友を眺めながら、ふたりはスイカを食べ始めた。
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