未知との遭遇






「さあ、ふたりとも準備はいい?」

 意気揚々。そんな表現がぴったりな口調で伊達がはしゃいでいる。

「今夜は世紀の大発見だ! 宇宙人の謎にせまるよ!」

「何だって?」

 懐中電灯片手に武田は突っ込む。訳がわからない。

 今日は、放課後あたりから伊達の様子がおかしかった。夜食の準備に登山の用意を言いつけられ、いきなり学校近くの裏山に連れてこられた。脈絡がなさすぎる。

 思っていることが顔に出たのか、伊達はやや興奮ぎみに説明をはじめた。

「見てよ! この動画! この裏山で宇宙人が目撃されたんだよ!」

「……本気か?」

「本気も本気! 見てよ、これ。人間じゃないし、野生の動物でもなさげじゃん!」

 ぐいぐいとスマートフォンを押しつけてくるため、動画を見ようにも画面が見れない。そもそもここは街灯もない山の中だから最初から見にくい。

「どうだかなぁ……」

 スマートフォンを受け取りながら武田はぼやく。

 伊達の根拠はSNSにアップされていた動画だ。よくありがちな大学生の暇つぶしに肝試し感覚で入ったところ光るふたつの物体に遭遇。案の定、全体的に手ブレがひどくて正体を見極めるのは難しい。

「キツネか狸の見間違いなんじゃないか?」

 現実的な仮説を提示するも、伊達は聞いていなかった。

「感じる。YouTuberとしてのオレの血が騒ぐ。これは絶対にお宝スクープ映像だ!」

 ひとり勝手に燃えている。すでに衝撃映像を撮った気でいる。おめでたいヤツだ。

「ふ、待っていろ、宇宙人! 必ず捕獲して、研究所に寄付するのだ。そうしたら謝礼をたんまりもらってオレは世界が羨む億万長者になる!」

 心底どうでもいい。

 取らぬ狸の皮算用は放っておく。いつものことだがヤツは口だけだ。彼の予想通りになった展開など遭遇したことがない。

 武田は、そろそろもうひとりの同行者が気になった。

「おーい、大丈夫か? 上杉」

 今日は平然としている表情だった。少し意外に思う。

 上杉は、この世のものではない、人ならざる者が怖かったりする。

 こんな夜の山のさぞ心細いかと心配したがそうでもないらしい。

 きっぱりとした口調で返してくる。

「俺は異星人が怖いわけじゃない。幽霊が苦手なだけだ」

「どういう弁解の仕方だ、そりゃ」

 強がるあたりは立派だと思う。意味はよくわからんけど。

「ふたりとも、何してんの、早く!」

 伊達は、いつも通りに急かす。

 つまりは普段の日常だった。


 ちなみに宇宙人の正体は猫だったりする。光が瞳に反射して、それっぽく見えただけ。





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