メッセージの恐怖
玄関につくなり、武田はどさりと荷物を置いた。
「もうこんな時間か」
時計を見て、ぼやく。
今日は久々に三条と会った。
自粛の影響で短時間の逢瀬ではあるけど。ただ食事をして近況を語り合っただけだが楽しかった。いつもの野郎ふたりとは全く違う。にこにこと楽しそうに笑う彼女に癒された。
今日のことでもメッセージに入れとくか。
面と向かって楽しいとは言えなかった武田である。
ポケットからスマホを取り出した時だった。画面を見た瞬間に凍りつく。
〈メッセージ84件〉
何だ、これ。
表示されているトークアプリの通知に固まった。尋常ではない数のメッセージが送られていた。武田は普段からマナーモードにしているだけに全く気付かなかったのだ。
軽くホラーだ。スパムでもこんな頻繁には送られてこないだろう。もらったことないけど。
武田は恐怖に駆られながらも、観察を始める。ただ単に怖くて無視できなかったともいう。
よくよく見れば、通知の正体はグループチャットだった。
震える指で画面をタップすると、
『お腹すいた』
『武田。今、どこにいる?』
伊達と上杉だった。というか、彼ら以外こんなはた迷惑な嫌がらせをする(本人たちはそう思っていないだろうが)人間を武田は知らない。
ちなみに三条からのメッセージはなかった。
拒否を考える前にメッセージを眼で追ってしまう。人間、恐怖に支配されると思考が鈍るものだ。
悪友ふたりのメッセージはこんな感じだった。
『ギョーザ食べたい』
『夕飯、何がいい?』
『シュウマイもいいけどね』
『今からそっち行ってもいいか?』
『シュウマイの作り方、知ってる?』
『武田。どうして返信くれない?』
脈絡ない伊達に対し、上杉は面倒くさい彼女と化している。なにより、双方とも互いに会話する気がない。
怒りより、疲労や呆れが先立つ。日曜の午後にやるべきことがないのか。武田はだんだん悲しくなってきた。こんな連中に貴重な時間を奪われているのかと。
『それとも思い切って鶏南蛮にしちゃう?』
『夕飯はロールキャベツにしようかと思う』
『いや、棒棒鶏かな』
『もしくはミネストローネ』
こいつら暇なのか? いつの間にかしかも夕飯の話で一致してるし。どれも面倒くさいメニューだし。
『あ、既読ついた』
『武田。今から、そっちに行く』
あ、まずい。気付かれた。
どうでもいいがメッセージの送信は止まる気配がない。こんな時、既読機能は厄介である。
仕方がないので武田は電話をかけることにした。
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