バンドマンへの道
「バンドやらない?」
さらりとした提案に、武田のピザを持つ手が止まった。
「いきなり何の話だ。伊達」
「やっぱりさー、今の時代バンドじゃない? バンド! オレと上杉と武田で曲を作ろうよ! そんで文化祭なんかでバーンと演奏……」
「やらん」
武田は即答した。
手にしていたピザを頬張る。トッピングはカニとクリームチーズ。うむ、やっぱりうまい。
「んもう、武田ってば。なんでいつもそう非協力的なの?」
「おまえがいつも夢見がちなんだよ」
不満げに唇を尖らせる悪友に対してにべもなく言い放つ。
ここのところの自粛ムードでストレスマックスの伊達が騒いだので、休日の映画鑑賞を開いたのだ。
これ以上のわがままは聞いていられない。
だが相手は猛者である。
「武田。なに弾ける?」
「聞けよ。人の話」
瞳を輝かせて質問したと思えば駄々っ子のように抱きついてきた。
「いいじゃんよー。訊くくらい。大丈夫だよ。オレの美声ならミリオンヒット間違いなしだよ!」
「そんでおまえが歌うのか」
役割分担が不公平だと思った。
とはいえ諦めさせるためにあえて答えてみる。
「まあ、ピアノくらいなら」
「はい?」
「だから、ピアノなら弾けるぞ。習ってたから」
バンドに疎い武田は演奏に必要な楽器を知らなかった。せいぜい、ギターとベースとドラムぐらいだ。ピアノはバンド向きな楽器ではないだろう。そう考えての発言だったのだが。
急に伊達の目が泳ぎだした。
「おい、考えてることがだだもれだぞ」
武田は突っ込むも、悪友はそっぽを向いた。ついでに口元をおさえる。
「べべべべ別に? ピアノなんて似合ってないなーなんて思ってないよ? ぶっふー」
「思いきり思ってんな、この野郎」
吹き出すのをこらえている伊達の胸倉をつかみあげた時だった。
「ふたりとも、チュロスとホットドックできたぞ」
料理片手に上杉がひょいと顔を出した。やがて油のいい香りが部屋に充満する。
「サンキュー」
武田が料理を受け取ると、伊達は上杉に飛びついた。
「上杉! 武田ったらひどいんだよ! 上杉だってバンドやりたいよね!」
「バンド?」
驚きに目を見開く。彼にしては珍しい反応だった。
「そう! 上杉だったら楽器なに弾ける?」
味方を得ようとする伊達。しばらく考えたあと上杉は口を開いた。
「……ソプラノリコーダーなら」
心なしか自信なさげな返答に男子ふたりは固まった。
ちなみにどうでもいいことだが。
文武両道の名高い上杉だが、音楽と美術の成績だけはよろしくない。
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