武田くんの長い1日 ⑦
残るひとりは探すまでもなかった。
グラウンドにひとり佇む迷彩服姿の男が悪目立ちしていたからだ。
校庭に出ていた生徒たちが円を描くように避けている。今の状況で無視できるはずもなかった。
「よく来たな。伊達……だが、ここがおまえの墓場だ」
「その意気や、よし。さっさと勝負を決めて再放送のドラマを観るよ!」
そして雌雄を決する時だった。
ぐ〜きゅるるる〜。
ぐ〜きゅるるるる〜。
盛大に鳴り響く腹の音。
武田はため息をつく。同好会メンバーに歩み寄るなり右手を差し出した。
「ほら。これ食えよ」
間食用に買っておいたコロッケパンだった。
食べ物を見るなり、目出し帽の奥が僅かに光る。
「だ、伊達の一味からの施しなど受けんわ!」
ぐ〜きゅるるるるる〜ッ。
慌てて顔を逸らすが腹の音はごまかしようがないほど空腹を主張している。なので、武田も引くわけにはいかない。
「アホか。腹が減っていて、まともな勝負ができるか」
その一言で同好会メンバーが勢いよく崩れ落ちる。
「我々の負けだ……」
「なんで」
意味不明である。
さっきのやりとりに勝敗を決める要素はどこにあったのか。
「武田すごーい」
「やったな。武田」
いつものごとく悪友ふたりは気にしていない。周囲にいた生徒たちも遠巻きに拍手している。
解せぬ。何故だ。
「何だ、このオチ」
武田ひとり完全にしらけていた。
現在のスコア。
伊賀、敗北。
サバゲ―同好会全員脱落。
ちなみに後日談。
「こんにちわー。サバゲ―同好会に入会希望なんですけど……」
「おおッ。ようこそ。この用紙に氏名とクラスを記入して」
「伊賀! 用紙が足らない!」
「誰か職員室からコピーとってこい!」
伊達たち生徒会との熱い対決のあと入会希望者が殺到。サバイバルゲーム同好会は部へと昇格した。
「あの~、質問なんですけど」
「はい。何でしょう!」
「木刀で戦っていた先輩って、サバゲーの人ですか?」
「バリスタ同好会とかけもちってできますか?」
他の同好会の反応も上々で次々と部活動が増えた。入部も新入生だけでなく、二年生も希望者が増えている。近年まれにみる傾向だという。
サバイバル同好会改めサバイバルゲーム部。
試合には負けたが勝負には勝った。
つまりは、そういうこと。
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