武田くんの長い1日 ⑥






 しんと静まり返った体育館。

 対峙するのは、サバイバルゲーム同好会メンバー・服部と剣道部・上杉。息を飲む硬質な空気に、その場にいた全員が勝負の行方を見守る。

 ナイフを片手にじりじりと距離を詰める服部。対する上杉は微動だにしない。まるで石像のように固まったまだ。

 やがて服部も動かなくなった。おそらく今の位置が互いの間合いのギリギリ外。不用意に立ち入った方が負ける。


 勝負は一瞬だった。ダンッと床を踏み込む音が響く。動きは武田の目では捉えることができなかった。

 服部はナイフを差し出したまま、動かない。その胴には木刀が食い込んでいた。


「チッ……ざまぁないな」


 脇腹を押さえ、笑う。

 ずるずると身体を沈めて痛みを堪えているようだ。


「やっぱり最速の攻撃には勝てないか」


 力なくうめく。その声はどこか楽しげにも聞こえた。


「おまえは勘違いをしている」


 立ち去ろうとした上杉が呟く。


「誰もが万全な状態で勝負をできるわけではない」


 服部の期待をすっぱり切り捨てるように告げる。


「抜刀術は刀を抜く予備動作を最小限に削ったもの。後の先を取るような、不利な状況を工夫して間に合わせようとした技術だ。熟練者でも、すでに刀を抜いている状態からわずかに遅い。選べるのならば、誰でも刀を抜いた状態を望む。つまりはそういうことだ」


 話は終わったのか、また歩き出す上杉。迎える前に伊達がこちらを向いてくる。


「……どゆこと?」

「俺に聞くな」


 気がついたら勝負が終わっていたのだ。何が起きたかわからない身では上杉の言葉を理解が難しい。

 強いていうなら、絶対的なスピード勝負なんてものはあり得ないということだろうか。スポーツであれ格闘技であれ、そこには厳然たるルールが存在する。だがしかし、それは公平ではないのかもしれない。一流のアスリートでも試合当日のコンディションが不調ということもある。


「は、勝てるわけねぇや」


 息を吐きながら笑う。対峙した相手だけは、その意図を察したらしい。

 それでも上杉は振り返らない。その絵だけは有名な勝負のワンシーンに見える。

 伊達は全身を震わせた。


「やだ。上杉、カッコいい……」

「ジャンル、間違えてね?」


 感動する悪友の隣で、武田がぼそりと呟いた。



 現在のスコア。

 服部、敗北。

 サバゲ―同好会ふたり脱落。







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