武田くんの長い1日 ⑤






 とにかく敵を見つけないことには話にならない。

 事態の収拾を図るため人手が必要だった。伊達は生徒会の招集を呼びかける。


『ごめん。今、みんなでそば食べてる』


「だそうだ」


 上杉がスマートフォンを差し出してくる。


「何やってんだ。おまえの彼女はよ」


 武田は腕組みしながらうめいた。


 早くも生徒会陥落が発覚したようだ。

 上杉の彼女・菊川は生徒会の副会長であり、唯一伊達に仕事をさせる稀有な人材でもあるのだが。すでに敵の施しを受け取ってしまったようだ。形勢逆転は難しくなった。


「きっと空腹で我慢の限界だったんだな」

「いや、上杉。自分の彼女を待てができない犬みたいな言い方すんなよ」


 さすがに武田がやんわりとフォローする。

 時々このカップルは本当に付き合っているのか疑わしい。

 人だかりができている校庭を見下ろせる場所に移動した武田たち。サバゲーの首謀者たちの姿は見当たらなかった。

 すでに不利な情勢を伊達はようやく感じ取ったらしい。顎に手を当て神妙な面持ちで呟く。


「あの菊川ちゃんを籠絡させるとは……一体、奴らは何者なんだ?」

「ただのそば好きなんだろ。作るのも食わせるのも、食うのも好き、みたいな」


 同好会を作るのだから、よほどそば愛のある連中なのだろう。ただの素人よりはおいしいものを作っているのだろう。


 とりあえず校舎を見回り、体育館へ向かった三人。

 覗くなり、中は異様な空気に包まれていた。新入生を迎える二、三年生たちだろう。皆がステージを見つめてひそひそと囁いている。

 それもそのはず。エアガンをもてあそぶ生徒がステージに腰かけていたからだ。目出し帽と迷彩服。間違いない。


「来たか」


 武田たちの姿を認めるなり銃を置いた。次に用意していたらしい木刀を投げた。落下地点は上杉の足元。

 サバゲー同好会のメンバー(顔を隠しているため、見分けがつかない)は、方のナイフを抜き取り、ステージを降りた。


「おまえとは一度、勝負してみたかったんだ」


 逆手に握り、構える。

 対する上杉は木刀を掴み、相手に歩き出した。

 お互い間合いの一歩外で対峙する。上杉は流れるような動きで腰の真横に握り、身体を捩じる。刺突の構えだった。だが、相手は動じない。


「抜刀術か。面白い」


 なんだ、この緊迫感。

 武田だけが場の空気から取り残されていた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る