武田くんの長い1日 ③






 サバイバルゲーム同好会の要求は、以下の通りだった。同好会メンバーと勝負をして全員を撃破すること。未達成場合、同好会から部への昇格。単純に考えて無茶ぶりだった。


〈言っておくが貴様に勝負しないという選択肢はない。我々はすでに新入生たちの身柄を拘束している〉


 考えるより先に逃げ道を塞がれた。

 武田は眉間に皺を寄せる。

 敵の頭も悪くないようだ。面倒な勝負を吹っかけきたら応戦する可能性は低い。ならば相手が受けざるを得ない状況をつくるのが定石である。


〈伊達。貴様の選択によっては人質にした一年生たちが……〉


 誰もが息をのんで話の先を聞こうとする。空気が緊張で張りつめていった。


〈バリスタ同好会は、可愛いラテアートやインスタ映えするコーヒーを提供!〉

〈そば同好会の皆さんが男子生徒を腹一杯にさせて帰宅を阻止!〉

〈香道同好会はアロマテラピーを応用した香で女子生徒はリラックス状態!〉


 これは一種の脅迫だろうか。ちっとも危機感がない。しかしながらスマートフォンの画面越しに映る新入生たちは幸せそうだ。つまり敵の術中にはまっている。


〈ふはは。どうだ? 貴様たちが勝負を受けないかぎり、彼らを拘束させてもらう!〉


 目出し帽越しでもわかる、したり顔。


 武田は呆れを通り越して面倒くさくなった。

 ことの発端は伊達であること、サバゲ同好会の動機、新入生に身の危険がないことから、事態の収拾をつける気がなくなった。このまま帰ろうかとも思った時だった。


「な、なんてひどいことを……」


 伊達ひとりが恐れおののいる。何でだよ。


「放課後は生徒たちの自由を謳歌する大切な時間なんだ。授業が終わり次第、即行帰宅して、宿題やらずにポテナゲタピってしょーもない動画見ながらぐうたら生活したっていいじゃないか。それなのに同好会や部活動のために貴重で自由な青春を浪費させるなんて、そんなことオレは許さないよ!」


 拳を握って熱く主張する会長。とはいえ主張する内容は意味不明だった。その証拠に、


「伊達。ポテナゲとは何だ?」


 上杉は素朴な疑問を口にする。


「いや、宿題くらいしろよ」


 武田はどうでもよさげな部分を指摘をした。


〈制限時間は正午まで! 新入生たちを解放したければ我々の元へ来るがいい、伊達!〉


 そんな流れで戦いの火蓋は切られた。何というか、もう一方的に。






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