武田くんの長い1日 ①
正午も近い、春風が心地よいグラウンドの中央。
「よく来たな。伊達……だが、ここがおまえの墓場だ」
「その意気や、よし。さっさと勝負を決めて再放送のドラマを観るよ!」
今、まさに雌雄を決する時だった。
いろいろ面倒くさいが、あえて言う。
なんだ、これ。
それは突然だった。
その日の早朝、武田と悪友ふたりは生徒会室でだらだらと過ごしていた。
今日は新入生歓迎会。生徒会の出番はそこそこに一日まるまる授業を潰して部活動の勧誘がメインとなる。つまり、帰宅部ふたりと会長はモチベーションがあがらない。
そろそろ始業のベルが鳴る頃か。
のんびり鞄を手にした武田は気付いた。ガラス戸のすぐ向こう、全身迷彩柄の人物がスケッチブックを持って立っている。
不審者だ。唐突すぎて武田は固まるしかない。
「な、なんなん……?」
おまけにうまく声が出ない。
「どーしたの、武田? おおッ、ゲリラ兵!」
伊達が驚いて叫ぶと不審者は走り去った。
「どうした。ふたりとも。日本兵の亡霊でも見たような顔して」
ワンテンポ遅れた上杉がふたりの心情を読み取ったような感想を呟く。
「い、いや……」
「どっちかっていうとゲリラとか多国籍っぽかった……」
確かに、自衛隊と縁がない自分たちにとって軍隊とは日本兵の亡霊なみに怖いかもしれない。この場合、不審者とどちらがより恐怖を感じるのだろう。ちなみに伊達の突っ込みはどうでもいい。
「なんだ、あれは」
「え、上杉!?」
悪友が窓から外に出る。不審者の手にしていたスケッチブックを拾いあげた。
武田は内心舌を巻く。ひとり事情が飲み込めていないとはいえ、不審者の落し物を回収するとは。
この男ただ者ではない(今さらな気もするが)。
「URL?」
「何かのサイトに繋がるのかもねー」
スケッチブックに書かれていたもの。
アルファベットと記号の羅列から何かのURLと思われる。しかも、手書きだったため途中で間違えたらしく一字つけ足された形跡があった。つまり手作り感満載。
上杉は戸惑うことなく自身のスマートフォンでURLを入力していく 視覚的な情報は、ここまで人を恐怖に陥れるのだなと妙に納得してしまう武田だった。
おまけに動悸が止まらない。
タイミングがまずい。これでは上杉にときめいているようではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます