真剣勝負ですから!
「ジャンケン、ポン!」
いきなり立ったままの上杉と織田がジャンケン始める。結果は上杉がパー、織田がチョキ。
スパンッ!
鋭い音が室内に響く。織田が丸めた新聞紙で殴りかかったが、それよりも早く上杉がヘルメットをかぶって攻撃を防いだ。双方、無表情まま勝負を続ける。
「ジャンケン、ポン!」
両者グー。仕切り直しだ。
「あいこでしょ!」
上杉がグー。織田がパー。
バシッ!
今度は上杉が新聞紙で突きを放つ。織田は間に合わないと思ったのかヘルメットでそれを防ぐ。
「ジャンケン、ポン!」
あくまでふたりとも無表情。それでいてハイレベルな攻防。笑いを誘う。それを武田はリビングの扉付近でみていた。
「どうだ。調子は?」
「決まらないねぇ。わかってたけど」
室内に入り、ソファーで眺めている伊達に話しかける。伊達ものんきな口調で勝負を端的に解説した。
「ジャンケン、ポン!」
ことの発端はやはり織田の殴り込みだった。
再び武田家へやって来て勝負というので、食事の支度を理由に相手を伊達に押しつけた。それがどうなったかは知らないが、気がついたらこんな形に落ち着いた。
ふたりの接点が存在していたか考えるより先に、伊達がのんびり呟いた。
「しんこちゃん、ああ見えて剣道部なんだー」
「いや、武道系なのは見てわかるけど」
会えば、うるさく勝負を吹っかけるあたり武道系以外の何者でもないだろう。
「ジャンケン、ポン!」
「上杉も剣道部だから得物を持った攻撃は強いし……」
「ふたりとも防御も鉄壁だからねぇ」
さらに激化していく勝負に新聞紙はボロボロだ。
しかし腹は減った。
「おーい、ふたりとも飯だぞー。そろそろやめろー」
「!」
武田が声を出すと上杉たちが振り返った。彼はわずかに頷くだけだったが、織田は自身の腕時計を見る。
「もうそんな時間か。ひとまず失礼する」
「そんな面倒くさいことすんなよ。ちゃんとおまえの分も用意したから」
食ったら、好きなだけ勝負しろ。
そんな意味合いだたのだが、織田は弾かれたように振り返った。かち合った目が丸い。なぜ驚くのか。
「そ、そんなもので絆されんぞ」
「考えてねーよ。んな、せこいこと」
ちなみに今日の昼食はローストビーフ丼だった。
その後も勝負を続けたが、両者一撃も入らず引き分けとなった。
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