流星群、見たいです。
夜の寒空の下。
「あれがオリオン座」
「右のは?」
「おうし座だな」
「じゃあ、あれはふたご座……」
上杉が懐中電灯を片手に夜空を示す。武田はその隣で紙に星座を書き写していた。
「ちょっと、ふたりとも! 目の前でイチャつかないでよね!」
「伊達。どこをどう解釈したら、そう見えるんだ?」
そこへ伊達が茶々を入れてくる。つまりはいつもの光景。なので武田もいつも通り不機嫌だった。吐いた溜め息が白く曇る。
「全く。この寒い中、なんで天体観測せにゃならんのだ」
「武田。そういう課題だ」
「そうだよな。おまえはいつもそうだよな。上杉」
ごく真面目に状況説明する上杉。
当たり前だが三人で夜空を眺めていたのは課題のためだ。地学の授業で星座のレポートを提出するよう、担当教諭からの通達があった。
「あ、流れ星!」
「そんで、おまえもそうだよな。伊達」
課題そっちのけの伊達。予想通り、天体観測の段取りをする傍らで菓子をたんまり買い込んでついてきた。
だが心外とばかりに頬を膨らませる。
「失礼な。今日のオレは一味違うよ。なんてたって流れ星に願い事をかけるんだから」
胸を張って正当性を主張するものの、内容はメルヘンチックだった。いつものごとく伊達は伊達だった。武田も半眼のまま、首を傾げる。疑いの眼差しだ。
「……で?」
一応、願い事を訊いてみると、あっさりした答えが返ってくる。
「彼女がほしい」
「おまえ、今さらそれを言うのか?」
あまりのくだらなさに武田は怒りに震えた。いや殺意を覚えた。
「ぐえッ!」
勢いあまって悪友の首に手をかける。めりめりと指がくい込む。武田はさらに力をかけて頚部を圧迫した。
「アホか。おまえのせいで無駄に学生生活を浪費してんのに……今さら都合のいいことほざいてんじゃねー!」
「ぐえぇぇぇッ」
ひき殺されるカエルみたいな悲鳴をあげる伊達。そのやりとりを眺めていた上杉の顔色がサッと変わった。極度に青ざめている。
「武田……まさか、おまえ」
「違う! なんか知らんけど、勘違いしてるだろ、上杉!」
「だが、それじゃ、武田……まるで伊達に彼女ができるのが嫌だと聞こえる」
「だから、違うッ! そっちじゃねーッ!」
「彼女ほしいの三乗おおおおぉぉぉぉっ!!」
そんな下らないやりとりは空が白みはじめるまで続いた。
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