ラーメン食べたい。






 室内は油の匂いで充満していた。


「おっちゃん、オレ、豚骨ギガ盛りね!」

「あいよ!」


 伊達の張り切った声に中年の男性が威勢よく返事をする。


「おれは、ネギ味噌ラーメンと餃子。上杉は?」

「塩バターと炒飯」

「おうよ!」


 カウンター席で注文する武田は、さっきまで見ていたメニュー表を上杉に渡す。またまた返事をしたのはラーメン屋の店主だ。


「で、そっちの新顔イケメンは何にする?」


 ちょっと困った風に店主が訊ねてくる。武田は横目で促した。


「おい、チャラ男。さっさと注文しろよ」

「あ、ありえない……」


 伊達の隣に座るのは徳田だった。何が不満なのか、顔を両手で覆っている。


「ラーメンの大食いなんて僕のスタイルじゃない……」

「勝負は何でもいいって言ったの、おまえだろ」


 そうなのだ。

 放課後、小腹が空いた三人は行きつけのラーメン屋に向かっていた。その途中で徳田と鉢合わせし、前回の仇だ何だと勝負を吹っかけてきた。腹もすいたし、追い返すのも面倒だった武田は勝手にさせておいた。


 勝手に店にまでついてきて文句を言われる筋合いはない。さっさと注文をすませ、敵陣の準備が整うまで待機する。


「へい、おまち!」

「待ってました!」


 器から大きくそびえるチャーシューの山盛り。伊達は怯むどころか喜んでいる。


「いただきまーすッ」


 次にネギ色の丼とバターの溶けかかったラーメンが運ばれてきた。武田も上杉も戦闘準備に入る。


「伊達くん……見損なったよ」

「何で?」


 もくもくと敵の動きを探りながら攻略を進める三人を見つめながら徳田が口を開いた。


「君は公平な勝負を望む男だと思ってたのに、こんな程度の低い勝ちにこだわるなんて……」


「何の話?」


 暗に非難する徳田とは対照的に伊達はケロッとしていた。


「オレはいつでも本気だし、全力投球だよ。そうじゃないと楽しくないじゃん。勝ち負けばっかりこだわってたらさ」


 徳田は言葉に詰まったようだった。

 自分がつまらないことにこだわっている気がしたのだろう。まさに男の器といったところか。そしてさらに追い打ちをかける面々がいた。


「負けたな」

「負けてるな」


 うんうんと頷く上杉と武田。徳田は頭を抱える。


「こ、この僕が敗北…?」


 苦悩する少年をよそに、ずるずると麺を啜る音だけが店内に響いた。






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