ホワイトデーには早くないですか?






「んーと、これは委員会の女子にあげてー……」


 教室の机には、大量のお菓子が山のように積み上げられている。キャンディや金平糖、マドレーヌ、マカロン、バームクーヘンまである。

 先月と既視感を覚えた武田だった。


 もちろん、伊達も上杉も気にした様子はなく、がさごそと仕分けながら会話を続ける。


「あ、こっちは生徒会でー。上杉、菊川ちゃんにお返し何あげた?」

「マフラーとのど飴」

「え。菊川ちゃん、風邪引いてるの?」


 悪友ふたりのとんちきなやりとりで思い出してしまった。

 上杉には菊川という彼女がいる。去年のホワイトデー、マフラーとのど飴を渡したことから交際が始まったらしい。意味不明である。


 今日は3月14日。世にいうホワイトデーだ。

 先月のバレンタインで山ほどチョコレートをもらった生徒会長は返済の義務に追われている。

 しかしながら彼が調達してきたお菓子のラインナップが気になる。世の中にはホワイトデーのお返しとしてNGのお菓子があるという。


 去年の上杉はまさにそれだった。マシュマロやクッキーを用意したが、それらは否定的な意味を持つと知った武田が慌てて止めたのだ。それゆえ、伊達が用意したお菓子が持つ意味が知りたくなった。


 スマートフォンを取り出し、調べてみる。

 キャンディはストレートに「あなたが好きです」。以前から告白の返事には使われているようだ。

 金平糖は長く口の中に残ることから「永遠の愛」。重すぎないか?

 マドレーヌは「あなたともっと仲良くなりたい」。知り合ったばかりの女友達あたりが妥当だろうか。

 マカロンは「君は特別な人」。本命決定。

 バームクーヘンは「この幸せが積み重なるように」。結婚式での引き出物に選ばれる理由がわかった気がする。


「急げ~、急げ~、あと十分もすれば皆来ちゃう~。そしたらホワイトデーパーティーだ」

「……伊達はいつもパーリーピーポーだな」

「上杉もわかってきたじゃん~。よく知ってんね。パリピなんて」


 思わず悪友を見る。


 侮れない。

 NGスイーツがひとつとしてない。


 伊達のセンスに感心しながらも、武田は別のことを考えていた。貰った女子生徒が勘違いをしないだろうかと。でも、それは自分に関係ないしなとも結論づけた。


 とりあえず、バームクーヘンを買って三条に渡そうと思った。チョコもらってないけど。







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