バレンタインですから。







「この間は羽柴と織田がお世話になったね」

「なんのなんの。ふたりとも元気で何より。あ、フォールド」


 耳半分の武田は、ばりぼりと遠慮なく咀嚼する。口の中にカカオの香りが広がった。


「随分、派手に遊んでくれたようだけど。僕はベットだ。そっちはどうする?」

「んー、そうかな。今回はチェック」


 視界の端で伊達と男子高生がポーカーをしている。

 それも絶世がつくほどの美形である。伊達も上杉も織田などが束になっても敵わないほどだ。


 ちなみに武田たちの目の前には、お菓子の山が広がっている。カップケーキ、トリュフに生チョコ。伊達がバレンタインで女子にもらったチョコレートだ。本人ひとりでは食べきれないため、上杉と一緒にがさごそとご相伴に預かっている。


「じゃ、次もベットだ。伊達くん、そろそろ君も勝負したら?」

「じゃ、オールインで」


 謎の美青年は、眉をひそめた。

 彼の名前は、徳田とくだ慎之介しんのすけ

 徳田は仲間に武田の家の住所を聞いてやってきたのだ。どおりで織田があっさり帰ったはずだ。いい迷惑である。


「本気? 後で泣きべそかいても知らないよ」

「大丈夫大丈夫。オレは常に本気。強気に無敵。おまけに度胸と愛嬌も兼ね備えているのさ」

「最後のは関係なくない?」


 それより、さっきまで勝負を降りてなかったか?

 のらりくらりとかわしていた伊達が勝負に出たらしい。

 いよいよ勝負が決するようだ。

 武田は形がまちまちなココア色のビスケットをかじった。上杉は隣でウィスキーボンボンをつまみながら読書に耽っている。


「ツーペア」

「フルハウス」


 ポーカーをよく知らない武田は、どちらが勝ったか判別がつかなかった。微かにふっと息がもれたのが聞こえた。徳田が笑ったらしい。


「じゃ、次はもらったバレンタインチョコの数で勝負しようか」


 伊達が勝ったのか。今度は自分が有利な種目で勝負をするつもりなのか。


「それは駄目だ」


 珍しくきっぱりとした口調で伊達が断った。


「これは女の子の気持ちでしょ。オレらが競うもんじゃないよ」


 一途な乙女の気持ち。改めて指摘されたことで武田は食べづらくなった。一方の徳田はというと優雅な仕草で前髪を払った。


「ふ。今回は引き分けとしておこう」


 そう来るか。

 武田は手にしていたビスケットをそっと包み紙で包み直した。





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