ジャムが食べたかったんです。







「武田ー。キルシュ入れていい?」

「まだだ。今入れたら、風味が飛ぶ」

「……本格派だな」


 正月も過ぎた頃、三人はジャムを作っていた。

 伊達家と上杉家でそれぞれ、リンゴと柿が大量に余っていたため、武田家に持ち込まれた。困った武田が苦肉の策でジャムにすることにした。おかげで大量の砂糖も消費するはめにもなったが。ジャムを詰めるガラス瓶を煮沸消毒しながら武田は疑問を口にした。


「伊達。あのうるさいボス猿……じゃなかった。羽柴って誰なんだ?」

「えいみちゃん? 中学の友達ー」


 そこへ、上杉が感想を述べる。


「伊達。たぶん、向こうはそうは思っていない」

「えー? えいみちゃんは、いつもあんなだよ」

「それもすごいな」


 厨房は、すでにリンゴと柿の匂いが充満している。一晩かけて砂糖とレモン汁と漬けこんだ。これで失敗したらどうしよう。


「いつも元気ハツラツ、Round1、Fight! って感じ?」

「それは大変だな」


 上杉の相づちはいつものごとく平坦だ。顔を合わせる度に勝負を吹っかけるのはいかがなものかとは絶対に突っ込まない。

 武田は煮沸消毒した瓶を鍋から取り出し、布巾の上に置いて乾燥させる。


「おまけに、幼なじみふたりと一緒にいるんだ。野郎三人で仲良くケンカしてるんだよね~」

「そうなのか」


 どこかで聞いたような話だな。

 既視感を覚える内容に武田は口出ししたくなったが、ぐっとこらえた。


「不思議なんだよね~。本人たちは勝ち負け気にしてるのに、端からみたら楽しく遊んでるようにしかみえないんだ」

「とても愉快な光景だな」

「そうだね~。見てて飽きないね~」

「本人たちが真剣なんだろう」

「んだんだ。あれだけ勝負事に熱い三人だから、将来は有名なアスリートになるんじゃない?」

「かもしれないな」


 わりと貶しているようにも聞こえる上杉の返答。そろそろジャムが煮詰まってきたから鍋の方に集中しているかもしれない。そんなことをぼんやり考えながら見つめていると伊達がこちらを見た。


「どしたの、武田。『気にするべきとこはそこじゃない』的な顔して」

「いいや、何でもない」


 野郎三人でジャムを作るのは、そいつらよりも不思議なはずだ。だが、それを察してくれるならそもそもこんなことにはならないはずだ。

 武田はさっさと諦めるなり、風味付けのブランデーを開けた。






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