おせち料理は好きですか?







「貴様、何者だ!?」

「うるせーな。黙って食えよ」


 一月一日。武田たちは再び行きつけの商店街にいた。


「よもや、おまえ伊達の手先だな!?」

「何で、そうなる?」


 餅つき大会のあと、羽柴にギャフンと言わせることができた武田だが。元日福袋イベントの手伝いに来た時、また鉢合わせしてしまった。これはこれで鬱陶しい。せっかくバイト料でもらったおせち料理が台無しだ。

 そこへ、空気の読めない男がやって来た。


「やぁやぁ、皆様、お疲れ様~」


 両手に大量の福袋を抱えている。何となく察しはついたものの、武田は訊ねた。


「伊達。おまえ、どこ行ってたんだ?」

「福袋抽選会の片付けしてた~。余った福袋もらっちった」

「おまえな……」

「ちゃんとふたりの分もあるよぅ。はい、上杉」

「ありがとう。伊達」


 横で黒豆をつついていた上杉がわずかに口元を緩ませた。わりと嬉しいらしい。意外な一面を目撃した瞬間、耳障りな哄笑が響く。


「ようやく来おったな、伊達! 今日こそ、おまえに引導を渡してくれる!」


 もうイベントは終わったが。なんの勝負をするつもりなのか。


「あ~、久しぶり~。えいみちゃん」

「英美だっ! 勝手に名前を変えるな!」

「えいみちゃんもお疲れ様。はい、福袋~」

「人の話を聞け!」


「武田。筑前煮、食べるか?」

「おー」


 相手は伊達に任せて、おせち料理にもどるふたり。


「紅白なますも食べた方がいい。平穏や平和を願ったものらしいから」

「そうなのか」


「伊達、貴様はいつも他人をおちょくりおって……」

「あ、えいみちゃん。織田と徳田は元気?」

「だから、人の話を聞けぇぇぇぇッ!」


「じゃ、上杉。伊達巻は?」

「伊達のように派手という説と巻物から連想して知識が増えるようにという」


「あ、餅つき大会は武田に負けたんだって? 残念だったねぇ~」

「そ、それをいうなぁぁぁぁッ!」


「なら、鰤は立身出世か」

「そういうことになるな」

「すると、黒豆は?」

「邪気払いの意味もあるが、まめまめしく働くという意味もある」

「誰かに食わせてやりたい料理だな」


「あ、ふたりにも福袋あげてね」

「そんなもので誤魔化されんぞッ!」


「静かに過ごすって具材はねーのかな」

「縁起物だからな」


 会話が噛み合わないふたりを遠目に見つめながら、武田はもくもくと食べ続けた。






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