餅つき大会は好きですか?
ひたすら鍋と時計を見比べて、武田は不満げに呟く。
「……伊達は?」
「さぁ」
隣の友人は、やはり興味が薄い。側で雑煮やらきな粉やらあんこを作っている。
今日は12月28日。
普段から世話になっている商店街の手伝いに来ている。年末のイベントで餅つき大会を毎年開催しているようだ。武田はもち米担当だ。
「このクソ忙しい時に、どこほっつき歩いてんだ」
「武田」
「やらねーぞ」
しかし、ただの餅つきではない。
高速餅つきと呼ばれ、どれだけ早く餅を完成させるかタイムを競う大会である。上杉の杵さばきでは両手を複雑骨折しかねない。故に、きっぱりイベント参加を拒否すると、どこからか哄笑が響いてくる。
「久しぶりだなッ、伊達政宏!」
最初は、いきなり目の前に壁が現れたのかと思った。
「再び雌雄を決する時が来たようだ! 手加減はせんぞ!」
次に耳に響く大声。それでやたら図体と態度がデカイ男だと思った。
「……誰だ?」
「文脈から察するに伊達の知り合いなんじゃないか?」
「会話をせんかッ、会話を!」
高校生なのだとは思う。だが、上杉よりも大きく横にも幅がある。顔立ちは人より猿、猿よりはゴリラといった貫禄。真冬だというのに実に汗くさい。
「どこのどなたか存じませんが、あの天然クラゲ男ならいねーよ。行方ならおれたちが知りたいくらいだ」
「俺の名は、
訊いてもいないのに名乗った。誰かを彷彿とさせる響き。考えるより先に、ついで鼻で笑われる。
「……ふ。敵前逃亡とは伊達らしい」
「あん?」
「いやなに。友達甲斐のない男だと思っただけだ」
羽柴は含みのある笑いをした。それが何故か癪に障る。
「君たちは伊達の友人と見受けるが、そこに信頼関係が成立してるのか? 実際、君たちは手伝わされているのに事情を知らない」
ただの頭の悪いゴリラではなかったか。変な観察眼だけはあるらしい。
「君たちも考え直すといい。あやつの友人ではいらぬ苦労を背負うだけだ」
決め台詞のようなものを吐いて立ち去る羽柴。疲労感や呆れなどがあったが、それよりも。
「……上杉」
「やるか」
「杵よこせ。あのボス猿大将に一泡ふかせてやる」
「わかった」
何故か無性に腹が立つ。腹が立つので餅つき大会で優勝してやった。
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