クリパ、楽しんでますか?






 12月24日。学校の調理室に武田はいた。

 製菓用のチョコレートを湯煎にかける。お湯を沸騰させないように火加減に注意する。チョコレートをゴムベラでかき混ぜながら、ふと疑問に思ったことを口にした。


「上杉は何作るんだ?」


「レーズンサンド」


 こいつはまた憎いことをやってのける。

 上杉は隣でビスケット生地を作ったあと、クリームチーズとラムレーズンを混ぜていた。ビスケットに挟む中身だったことに言われてから気がついた。

 クリスマスパーティーに材料が少ないブラウニーを作っている自分とは雲泥の差である。もう少し難易度のあるお菓子にすればよかったか。早くも手間を惜しんだことを後悔。


「あとは、ブッシュドノエルを作ろうかと思うんだが……武田は生クリーム派か?」


「よせ。完璧に予算オーバーだ」


 溶かしたチョコレートにバターと薄力粉を加え、手早く混ぜる。型に流し込んだ生地をオーブンに入れた時だった。甘い香りの漂う家庭科室の扉が勢いよく開け放たれる。


「メリークリスマス!」


「来たな。全ての元凶」


 入ってきたのは伊達だった。真っ赤な衣装に白のつけ髭。浮かれたコスプレなのに似合っているのが腹立たしい。


「伊達。クリスマスにはまだ早い」


 ピントがずれた上杉はさておき。

 そうなのだ。クラスでクリスマスパーティーをしようなどとバ会長が言い出したため、武田たちはすこぶる迷惑なあおりを食った。気がついたら、プレゼント用にそれぞれお菓子を作る任を命じられていた。食事ではないだけマシだと思うべきなのか。


 苦手な菓子料理を押しつけられて、武田はかなりやさぐれている。

 苛立ちながらも気になったことを訊いてみた。


「何なんだ。そのでかい袋は」


 問われて、サンタクロース伊達はいそいそと白い布製の袋から中身を取り出す。

 電気ケトルやワッフルメーカー、たこ焼き機などが無造作に並べられる。


「ん? ビンゴ大会でもしようと思って。これは景品」


 バリスタまである。

 こいつはこいつで期待を外していない。

 忘れがちだが、こいつの家は金持ちだ。こういうイベントの時は大盤振る舞いをする。ヤツが学校の人気者たる所以は、こんな部分があるからに違いない。


 多少どころか、自分の存在がかすみまくっている。

 武田はブラウニーがうまくできるように胸中で祈った。





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