天才と紙一重のもの







 放課後の教室。

 武田は、ふと気がついた。


「あれ。伊達は?」


 向かいに座る悪友に訊ねる。

 最近、静かだった理由がもうひとりの悪友だったことに思い当たった。


 訊ねられた当人は視線もあげずに答えた。


「部活の助っ人だ」


「また陸上部のか?」


「いや。テニスとバレーボールだ」


 忘れがちだが、ヤツは優等生である。

 成績優秀だけでなく、スポーツも万能だったりする。体育祭や球技大会で活躍するため、運動部の助っ人を頼まれることは日常茶飯事だ。依頼内容は、もっぱらスタメンの練習相手を務めているらしい。


 そこで武田は大きく頷く。


「そうか。それで最近は平和だったんだな」


「そんな見方もあるかもな」


 かなりひどい言い分だが、上杉はあっさりスルーした。

 武田にとって伊達は台風のようなものだ。側にいなければ毎日が平和に過ごせる。これもひとつの真実だった。

 相手は「バレーボールって9人でやるんだっけ?」というヤツである。ルールもよくわかっていないのに、平気でブロックアウトを決めるヤツでもある。ただの阿呆だけでなく恵まれた才能を持つ人間というのは、厄介な存在なのである。


 そこへ、噂の張本人がやってきた。


「やぁ、やぁ。ふたりとも、お疲れ~」


「ああ、おれの平穏が……」

「伊達。お疲れ」


 唐突に終わりを告げた安息をぼやく武田と普通にスルーする上杉。

 伊達も気にした様子もなく、こきこきと肩を鳴らして椅子に座った。


「今日は何の助っ人だったんだ?」


「バスケとサッカー。もうくたくただよ」


 上杉の質問で、さらにハードな放課後を過ごしていたことが発覚。いや、問題はこんなヤツを練習相手に選ぶ部活ではなかろうか。一夜漬けの実力などたかが知れている気もする。大丈夫か、ここの学校。


 とはいえ、ただ遊んでいたわけではない。

 さすがの武田も今日の晩飯は豪華にしようと考えた時だった。


「大変だな」


「んー。でも、報酬あったからなぁ」


「報酬?」


 部活動で?

 金銭のやりとりではないだろうから何をもらったのか気になった。


 伊達もほくほくとした表情で嬉しそうだ。 


「ポッキー三箱。やー、稼いだ稼いだ」


「それでいいのか、おまえは」


 5つも部活動をかけもちした割には安い報酬ではないだろうか。

 やっぱり、伊達は伊達だった。






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