お好み焼きの謎
むしゃむしゃと咀嚼したあと、武田は呟いた。
「何故だ」
神妙なのに、口元にはソースと青のりがついている。
「何故、うまいんだ。伊達が作ったのに」
「武田。口元」
上杉がティッシュを渡してきた。周囲には香ばしい匂いが漂っている。
いつものごとく、武田邸のダイニング。口元を拭う武田の目の前には、食べかけのお好み焼きがある。それも複数。豚玉、イカ玉、もんじゃ焼きの豚キムチまである。どういうわけか伊達はお好み焼きだけはおいしく作る。外側はカリッ、中身はふわっ。店で食べるものとは比べ物にならないくらいだ。毎回それが不思議でならない。
「お待たせ~。チーズフォンデュスペシャルできたよ~。熱いうちにどうぞ~」
厨房から出てきた件の人物。分厚いパンケーキのような生地にこれでもかと溶けたチーズがかかっている。
「おいしい?」
「ああ。そのトンチキな格好がなければもっとうまい」
口にしながら、無意味な抵抗とわかっていた。
伊達は若奥様のようなフリフリのエプロンをしている。これが自分や上杉だったら異常レベルの違和感だが、伊達が着ると不思議に感じない。麻痺なのか?
「いっぱい作ったから遠慮なく食べてね~」
しかも、太っ腹。なかなかない機会なので、もちろん遠慮の欠片もなく食べ散らかしている。
他に気になることもあったからだ。
「なぁ、決め手は何だと思う?」
「強いて言えば、長芋だろうな。材料も特別なものは使っていないし、調理にも隠し味みたいなものもなさそうだ」
上杉と食べながらおいしさの秘密を探る。ふたりともあわよくば、伊達の技を盗もうとしていたのだ。
しかし悲しいかな。手がかりは毎回のごとく得られない。彼の買ってくる材料はスーパーで手に入るものばかりで、調理方法も特段、変わったテクニックなどは見られない。まさかいつも上機嫌に鼻唄を歌いながら躍りながら作ることがおいしさの秘訣ではあるまい。
「やっぱ、お好み焼きは伊達だなー」
むぐむぐとハムスターよろしくとばかりに頬張る。
秘密を探るのは諦めて、純粋にお好み焼きを楽しもうとした時だった。
「武田。俺はピザを作ろうと思う。具材は明太子ともちとチーズで」
「それ、何のアピールなんだ?」
真面目に宣言する上杉に、怪訝な表情で突っ込む。
一体、何のスイッチが入ったのやら。
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