お化け屋敷






 薄暗い中、上杉の顔は冴えない。


「で、今の気分はどうですか? 上杉クン」


「やめろ。本気で怖がってんだから」


 スマートフォンを覗く悪友を武田は制止させる。


「武田……」


「情けない声だすな。ますますカモにされんぞ」


 ここは近所で有名になったお化け屋敷だ。

 SNSで「本物が出る」と噂になり、客が殺到している。


 それを伊達がYouTubeにアップする題材にしたいために自分と上杉を騙してここに連れてきたのだ。お化けに驚かされた時のリアクション要員として。


 怖がりな上杉には迷惑に違いない。


「ほら。手でも握ってりゃ少しは違うだろ」


 仕方がないので助け船を出すと、伊達の声が弾む。


「いいなー。上杉。オレもオレも……」


「その動画、止めるならいいぞ」


 調子に乗ったヤツがさらに調子に乗る。悪循環だと思った時だ。


「おい。伊達、握るな」


「ん?」


 上杉の手を握った右手と反対の手に何かが触れた。犯人を注意するも、伊達は首を振る。


「オレ、握ってないけど」


「だってさっき……」


「これで、どう握れっていうのさ?」


 さっと差し出されたスマートフォン。伊達は先ほどから両手で動画を撮影していた。つまるところ、


「武田……!」


「落ち着け、上杉。ただの気のせいだろ」


「いやー、わかんないよ」


 取り乱す上杉をなだめようとするが、伊達は相変わらず空気を読まない。


「怖い話にあるじゃん。いつの間にかにひとり増えてるとか」


「…………!」


 握っていた手がぐっと強く力を込めてくる。


「上杉! おれの気のせいだ! きつく握るなッ、抱きつくな!」


「おおッ、カップルに忍び寄る謎の恐怖ッ! これぞホラークオリティ!」


「カップルじゃねー! てか、B級のクオリティ以下だろ、これッ!」


 上杉は恐慌状態に落ちる寸前かもしれない。なのに、伊達ときたらさらに追い込んでくる。ゴキブリが苦手な人間にゴキブリを差し出すようなものだ。恐怖は計り知れない。人間、心細いと他人にしがみつくようだ。


 ただし、野郎に抱きつかれてもちっとも嬉しくない。


「武田。駄目だ。もう動けない……」


「大丈夫だ! ここには何もいない!」


「あはははは! 別なとこにはいるかもね~」


 わけのわからないテンションに、お化け役の方が困って驚かせずにいた。






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