風邪ひきました。






 ガラゴロガシャーンッという音がした。

 武田は意識をとり戻す。次に怠さと喉の痛みを感じた。


「うるせーな……」


 ケホッと軽い咳が出た。

 金曜の夜から具合が悪い。それから熱と喉の痛みに襲われた。立派な風邪である。


 それくらいなら問題ない。休みの日に体調を崩すなんて損したなぁ、と思うくらい。


「武田! 氷枕できたよ!」


 その瞬間、乱暴に部屋の扉が開いた。今の状態には、かなり頭に響く。


「そりゃどうも。氷、床にぶちまけてないだろうな?」


 痛みをこらえ、現れた当人に確認すれば当然とばかりに胸をはる。


「当たり前じゃん。テーブルにしかこぼしてない!」


「…………」


 武田は言い返すのも億劫だったが、ベッドから身を起こす。慌てて、伊達が駆け寄る。ついでに氷枕を放り投げる。


「駄目だよ、武田! ちゃんと寝てないと!」


「完治した時、水浸しのテーブルを拭くのはおれだ」


 自分には一日さえ寝込むことが許されないのか。

 人間、しんどいと哲学的なことを考えるらしい。とはいえ、体調が悪いことも事実なので動かない体にため息をついた。


「だるい……」


 がさがさの声を絞り出せば、伊達は困った表情で眉尻を下げた。


「オレ、風邪引いたことないからなー」


「うん。バカは風邪引かないからな」


 風邪のつらさはわからないという空気の読めない発言をする伊達。武田に殺意が芽生えた瞬間だった。


 すると、開け放たれたままの扉からもうひとり現れた。


「武田。テーブル拭いといたぞ」


「サンキュー。上杉……」


 この時ばかりは、頼りになる悪友・上杉。武田も素直に感謝する。

 と、ここできれいに話が終わらない。


「食べれるか?」


 上杉の手には土鍋がある。いそいそと器によそり、武田に手渡された。中身は湯気と香りが立つお粥だったりする。


「……上杉」


「気にするな」


「いや。そういう意味じゃねー」


 同性の友人にここまでされると、嬉しさより別な感情がわいてくる。おれ、おまえの嫁じゃないから的な。


 けれど、食事を作ってくれた申し訳なさもあり、強くは言えない。

 すると、とうとう上杉はお粥をのせたレンゲを差し出してくる。


「武田。口、開けろ」


「いや。自分で食えるから」


 そこは頑なに断った。

 ここで甘えては何かがおかしくなる気がした。






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