School Festival Confusion






 文化祭前日。

 伊達が混雑する調理室を覗く。


「武田ー。ガムテープが足らないってー」

「まだ在庫があるはずだ。購買部に確認しろ」


 武田は振り向きもせずに答えた。

 鶏もも肉16キロ。ひたすら、ひと口サイズに切り分ける。切り終えたら肉に塩コショウをまぶし、片っぱしからフリーザーバックに詰め込む。


 あ、フライドポテトも作らねば。

 数十個のパックができたところで、再び伊達がやってきた。


「武田ー。椅子も足らないー」

「体育館からガメて来い」


 身も蓋もない返事だが伊達は「わかったー」と素直に従う。突っ込むほどの余裕がないのだ。誰もが全員。


「全く。何なんだ、この忙しさは」


 苛立たしげに毒づく。

 文化祭で出し物をするのはいい。だが、なぜ生徒会の出し物を手伝うはめになったのか。しかも、から揚げとフライドポテトのフィンガーフード。


 文句を言ってもきりがない。武田は諦めてコンロの前に立つ女子に声をかけた。


「菊川ー。この肉、下味の調味料と火にかけろー。調味料の分量はメモしといたからなー」


 遠くで返事が聞こえた(ことにする)。人間、細かいことを気にしてはいけない。

 にんにく、しょうが、酒、醤油で肉を鍋で煮込むと味も染み込むし、火も通る。揚げるのは衣だけですむ。ネットで調べた時短テクだ。


「上杉。ジャガイモの皮むけ。当日は揚げるだけにするぞ」

「わかった」


 敵はまだ残っている。

 今度は、上杉とふたりでジャガイモの山10㎏と戦わなければならない。包丁を握る手に力を込めれば、またもや伊達がのんびりな口調で訊ねてくる。


「武田ー。から揚げ、ひとり270gだっけ?」

「違う。160gだ。270は値段だっつの」


 伊達の質問に苛立ちまじりに答える。

 ジャガイモと必死に格闘しているため(皮むき)、だんだんと受け答えが雑になっていく。


「武田ー。メニュー表どうする?」

「そんなもん手書きだ」

「看板」

「なくていい」

「ナプキン……」

「食堂から強奪してこい」


 のんきな伊達と入れ違いに次は上杉が訊ねる。


「武田。当日のまかない、どうすればいい?」

「から揚げでも食わせとけ」

「試食用のか?」

「いや。今、菊川が試し揚げたのだ。この黒いヤツ」

「そうか……」


 上杉は遠い目をするも、気にしている余裕はない。

 忙しさは人を変えるのだ。







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