睡魔って恐ろしい。





 午後八時。


「つ、疲れた……」


 武田はベッドに倒れ込んだ。

 今日も悪友ふたりに振り回され、全身くたくただった。何とか数学の予習は片付けたものの、他のことをやる余力など残っていない。強烈な睡魔が襲ってきた。


 このまま寝てしまおうか。そんな誘惑に負けそうな時ぼそりと呟いた。


「…………三条、拗ねてるかな」


 実は、付き合っている彼女がいたりする。最近、忙しすぎてろくに顔を合わせていない。悪友ふたりのとばっちりを食って予定をキャンセルしても笑って許してくれる彼女だ。いつ愛想を尽かされてもおかしくない。


 痛む良心からスマートフォンを手探りで掴む。


『おいしいタピオカドリンクの店を見つけた。今度、一緒に行こう』


 重いまぶたを必死に開いてメッセージを送信する。


「もう駄目だ……」


 いよいよ限界だった。枕に突っ伏すなり、武田は意識を手放した。



 翌日。


「武田。おはよう」

「おー」


 挨拶するなり、上杉が至近距離まで詰め寄ってきた。


「俺はいつでもいいぞ」

「いきなり何の話だ」


 見上げる形で訊ねる。心当たりがまるでない。


「武田の浮気者!」

「はい?」


 今度は伊達が加わってきた。


「武田はそんなことしないヤツだと思ってたのに! 何なの、オレたちだけじゃ不満だったの? だから、他の人たちも誘ったの? あんまりだ!」


「伊達。落ち着け」

「何なんだ。その泥沼の修羅場じみたセリフは」


 上杉が伊達を窘めるも、武田はさっぱり訳がわからなかった。


「武田。これに見覚えないか?」

「あん?」


 上杉が差し出したスマートフォンを覗いてみると、


「げっ」


『おいしいタピオカドリンクの店を見つけた。今度、一緒に行こう』


 昨夜、彼女に送ったメッセージだった。それが上杉のスマートフォンにも送られている。


 ということは。

 武田は急いで自分のスマートフォンを取り出す。送信履歴を確認すると、彼女個人ではなく登録されたクラスメイト全員に送っていた。


「もう他の連中も行く気してるよ」

「武田。大丈夫か?」

「…………」


 友人たちの声など聞こえない。急速に気が遠くなった。

 あとで彼女からもOKの返事をもらったけれど嬉しさは半減した。


 一体、自分は何杯のタピオカドリンクを飲むはめになるのか。それを考えただけでげっそりだった。







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