ハロウィンですよ。






 五限目の休み時間。そろそろ小腹が空きはじめる頃、伊達が話しかけてきた。


「ねー。武田、ハロウィン……」

「却下」


 すっぱりとした拒絶に悪友は目を丸くする。次いで怪訝そうに眉をひそめる。


「嫌だね、あんた。まだ言い終わらない内に」

「どうせ、ハロウィンパーティしたいからかぼちゃ料理作れとかだろ」


 次の授業は現国だ。当てられても支障がないように内容や熟語のチェックを続行する武田。


「誇りを持て。おれたちは日本人だ。お菓子業者に躍らされてなるものか」


 急に愛国心が芽生えたごとき物言いに伊達は面を食らう。

 一説によると、日本でのハロウィンブームはお菓子業界の陰謀だといわれている。どうしても売り上げが落ちてしまう10月には格好のイベントだった。お菓子会社がこぞってハロウィンを印象づけた結果、お菓子やらコスプレやらかぼちゃやらが蔓延するようになったらしい。


 それを説明されたところで、とりつく島もない様子に伊達は困惑ぎみだ。


「何も、そこまで拒絶しなくても」

「じゃあ。違う用件だったのか?」

「うんにゃ。かぼちゃ料理が食いたいって言おうとしてた」


 同じことやんけ。というか、それのどこに違いがあるのか。ちっとも悪気がない伊達に、ため息をこぼす。


「あのなぁ、かぼちゃ料理ってめっちゃ大変なんだぞ。ものによっちゃ、包丁の刃が入らないから……なあ、上杉」


 主婦の悩みをぼやく男子高生。口にした武田に違和感はないし、助け船を期待して横目で相手の様子を探る。


「ん」


 頷くなり、上杉は手にしていた雑誌を見せてくる。特集記事はかぼちゃ料理。かぼちゃのシチューやグラタン、パイにはじまり、タルトやプリンなどのスイーツ諸々のレシピが掲載されていた。


「武田は、どれがいい?」

「おまえもか」


 立派にハロウィンに躍らされてるやんけ。

 しかも、何故おれに食わせるのか。


 お決まりの上杉、謎発言。一体、どういうつもりなのか。だが、怖くて訊けない。どう指摘するか悩んでいると、伊達が身を乗り出してきた。


「上杉、上杉。オレ、かぼちゃのシフォンケーキが食いたい」

「伊達は、たまには自分で作った方がいい」


 さらっとしたやりとりだが、不穏な空気が流れたのはきのせいか。

 そうしてよくわからない間に、武田はかぼちゃのシチューを作るはめになった。






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