武田くん家の晩ごはん
「あー。寒い」
すっかり秋の気配に馴染んだ十月。陽が落ちた通学路はひどく肌寒い。
「何か、温かいもん食いてーな……」
首を竦めた武田の呟きに、バ会長が反応した。
「武田。おでん……」
「作らねーぞ」
きっぱり拒絶すると、今度は上杉が口を開いた。
「武田。何がいい?」
「いや、おまえが作れって意味じゃねー」
何が嬉しくて野郎の手料理を食べなければならないのか。普通、彼女に作るとか作ってもらうとかの話ではなかろうか。至極、当たり前だと思う感想に伊達は眉根を寄せた。
「武田。前から思ってたけど上杉に冷たいよ」
「おまえはおでん食いたいだけだろ」
「武田……」
「上杉。だから、その顔は使いどころを激しく間違えてるぞ」
おでんのために状況を盛る伊達、本気にする上杉。なんかいろいろ面倒くさい。
「大体、おでんは好きじゃないんだよな。おかずにならねーし」
武田がため息をついて乗り気ではない理由を語ると、
「ちくわ!」
「はんぺん」
「何の抵抗だ。そりゃ」
「煮卵!」
「もち巾着」
「好きな具材言っても作らねーぞ」
悪友ふたりは攻め手を変えた。
まずは食べたい具材を口にする。次は、何故かふたりしてベッタリ身を寄せてきた。
「武田。寒い~、お腹すいた~」
「ひっつくな。伊達。重い」
「武田。俺の料理は飽きたのか?」
「その言い方やめろ。他人が聞いたら誤解すんだろ」
身体にのしかかられて重いし、気持ち悪い。怪しげな発言への突っ込みも忙しい。
「あぁ、もううるせーなぁ……」
武田が息を吐いた。いつものごとく根負けしたのだ。人間、諦めが肝心である。ただし、
「今日はグラタンを作るぞ。文句がある奴は食うな」
武田はささやかな抵抗を見せる。意地でもおでんは作らないという意思表示。なのに、伊達の表情が変わった。
「いいねぇ。グラタン。帰りにスーパー寄ってこ」
「おー。期待してるぞ。荷物持ち」
「武田。コーンクリームスープ作っていいか?」
「好きにしろ」
伊達にタックルされ、ふらふらの足取りで歩く。上杉は汁物を作ってくれるようだし、買い物も夕飯も手早くすませよう。
スーパーに寄り、カゴに余計なものを入れる伊達を注意し、ビーフストロガノフを作ろうとする上杉を止めて帰途につく。つまりは、いつも通り。
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