キャンプ
「伊達が飯つくるって?」
寝袋を抱える武田は目を丸くした。
「自分から言い出したぞ。もう作り始めてる」
「マジか」
今現在、研修旅行として近県のキャンプ場を訪れている。班編成は自由に決められたので、いつものごとく三人で準備をしていた。
高校生にもなって何故キャンプとも思うが文句を言っても始まらない。メンバーふたりは変わり者だから、どんな無茶ぶりをしてくるか予測不可能だ。
実際に、伊達が夕飯のカレーを作っているという。
目的が不明だ。奴には労働という言葉が激しく似合わない。料理なんぞ、もっとも逃げたい部類だと思うのだが。
てきぱきとテントを設営する上杉には心当たりがあるようだった。
「たぶん、テントの方が面倒だと思ったんだろう」
「それ、かえって危なくね?」
単純な理由すぎた。
要するに、楽な方を取ったらしい。だが、それは恐ろしい事態を示唆する。
武田は不安になった。
無事に明日を迎えられるだろうかと。
そんな心配を他所に、今夜の料理長がお玉片手にやって来た。
「ねー。武田」
「なんだ」
ジャージ姿にエプロンという出で立ちなのに、何故か絵になる男・伊達政宏。その証拠に周囲の女子生徒が聞き耳を立てて様子を窺っている。
ぶっちゃけ、帰りたい。
むろん、そんな胸中を悟ってくれる伊達ではなかった。ナチュラルな態度で話題を切り出してくる。
「ナス、入れていい?」
「いいんじゃね?」
「バナナは?」
「好きにしろ」
「梅干し」
「聞いたことないな」
「納豆」
「やめておけ」
「カツオ」
「却下」
「ナマコ」
「禁止」
だんだん怪しくなってくる具材で会話が終わる。
伊達は鼻唄混じりに調理場に戻っていった。
恐ろしい事態だと武田は焦りはじめる。
伊達は質問してきただけだ。話題にのぼった食材を入れるとも入れないとも言ってない。夕飯の出来がすこぶる心配だ。
「なぁ、上杉……」
打ち寄せる不安から、もうひとりの名を呼ぶ。
上杉に伊達の手伝いを頼もうと思った。今からでは手遅れかもしれないが何もしないよりはマシだ。
「大丈夫だ」
まるで心中を察したかのように上杉は言い切る。
「日本人ならカレーを作れるはず」
「すごい認識だな。それ」
そして、世にも奇妙なカレーが誕生した。
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